Entries from 2006-05-01 to 1 month

社会の心理学化

若手の研究者からいただいた、社会の心理学化についての論文を読む。 文献は 佐藤雅浩「『心理学化する社会』の歴史的相対性 - 大衆化された心理学学説に対する専門家の懐疑論に着目して」『現代社会理論研究』15(2005), 383-393. もう一つ、「心理学的疾患…

ヨーロッパの公共浴場

19世紀後半のドイツの公共浴場の歴史を論じた論文を読む。文献はLadd, Brian K., “Public Baths and Civic Improvement in Nineteenth-Century German Cities”, Journal of Urban History, 14(1988), 372-393. ヨーロッパの公共浴場の歴史というのは、意外に…

特効薬とは何か

新着雑誌から。医学史の古典の一つ、「イギリスのヒポクラテス」、トマス・シデナムによる17世紀の特効薬論を読む。文献はMeynell, G.G., “John Locke and the Preface to Thomas Sydenham’s Observationes Medicae”, Medical History, 50(2006), 93-110. シ…

細菌による世界統一

コメントに触発されて、今日は簡単な文献の紹介です。 フランスの歴史学の泰斗、エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリーに「細菌による世界統一」という面白い論文があります。ユスティニアヌスのペストと14世紀の黒死病の伝播の範囲の違い、そして19世紀のコレ…

ペストの世界的流行

20世紀前半のペストについての金字塔的な研究である、ポリッツァーの書物を読む。Pollitzer, R., Plague (Geneva: World Health Organization, 1954). 同じ著者のコレラの研究書も、だいぶ前に紹介した。 1890年代から約60年間、ペストが世界的に流行した。…

放浪する狂人

精神病院への入退院と放浪を繰り返し戦争中に死んだ翻訳家・文筆家の辻潤の伝記の類を読み漁った。文献は、三島寛『辻潤-芸術と歴史』(東京:金剛出版、1970);玉川信明『評伝辻潤』(東京:三一書房、1971); 松尾季子『辻潤の思い出』(京都:「虚無思想…

日本のロボトミー

日本のロボトミーの第一人者、広瀬貞雄の著作を読む。文献は、広瀬貞雄『ロボトミー-主としてその適応に就て-』(東京:医学書院、1951) 日本で始めて精神外科が行われたのは、昭和14年の新潟医科大学においてである。その後、昭和17年にも同大学で行われ…

死体のセキュリティ

才気煥発のブロガー、nietzsche_rimbaud さんが、最近発売の、環境に優しい棺桶の画像をアップしています。これに触発されて今日は主に画像の紹介です。 イギリスでは18世紀以来、医学校での解剖実習用の死体が不足して、死体泥棒が横行したのは有名な話です…

水の環境史

数日続いた悪魔憑きのおどろおどろしさを洗い流してくれるような水の歴史の研究書を読む。小野芳朗『水の環境史-「京の名水」はなぜ失われたか』(東京:PHP新書、2001) リサーチの中心は、明治期の京都の上下水道建設案の行方である。ペッテンコーファー…

19世紀心理学のアンソロジー

19世紀の心理学のアンソロジーを読む。文献は、Taylor, Jenny Bourne and Sally Shuttleworth eds., An Anthology of Psychological Texts 1830-1890 (Oxford: Oxford University Press, 1998). 人文社会科学のさまざまな領域で、医学や病気や身体の歴史への…

ヴィクトリア朝の心霊主義

イギリスの心霊主義についての古典を読む。文献はOppenheim, Janet, The Other World: Spiritualism and Psychical Research in England, 1850-1914 (Cambridge: Cambridge University Press, 1985) 『英国心霊主義の台頭』和田芳久訳(東京:工作舎、1992)…

エリザベス朝ロンドンの「ヒステリー」

1602年に起きた魔女疑惑事件で、魔女術の結果であるとされた少女Mary Glover の奇妙な症状が、「ヒステリー」であると論じた書物を読む。文献は、Witchcraft and Hysteria in Elizabethan London: Edward Jorden and the Mary Glover Case. Ed. and intro. b…

ルダンの悪魔・ポーランド編

ルダンの悪魔憑きを素材にした小説を読む。文献はヤロスワフ・イヴァシュキェヴィッチ『尼僧ヨアンナ』関口時正訳(東京:岩波文庫、1997) ルダンの悪魔憑きの事件を題材にとって、細部は史実や当時出版された書物に依拠しながら、しかし舞台を17世紀のフラ…

ルダンの悪魔憑き

ルダンの悪魔憑きについてのミシェル・ド・セルトーの書物を読む。文献は、Certeau, Michel de, The Possession at Loudun, translated by Michael B. Smith, with a Foreword by Stephen Greenblatt (Chicago: University of Chicago Press, 1996). 1632年…

メランコリー論の古典

週末の学会や色々な仕事や大失態が重なって、1週間ほどブログの更新が滞りました。 メランコリー論というだけでなく、近代思想史・文化史の名著中の名著、クリバンスキーらの『土星とメランコリー論』を読み返す。文献は、Klibansky, Raymond, Erwin Panofsky…

拘束致死事件とヴィクトリア朝

このブログは、淡々と研究書の紹介をしているが、今朝のニュースで見た名古屋の「アイ・メンタルスクール」という民間施設での拘束致死事件は、精神医学史の研究者たちにとって、デジャ・ヴュという言葉以外では表現できない印象を与えただろう。 ニュースや…

フェミニズムと精神病院への不法監禁

19世紀のイギリスで、夫によって精神病院に不法監禁された妻が書いた告発パンフレットを読む。 文献は Bulwer-Lytton, Rosina, A Blighted Life: A True Story (1880; rept. with introduction by Marie Mulvey Roberts (Bristol: Thoemmes Press, 1994). 19…

ポストモダン時代の病気とは

ポストモダン時代の病気論を読む。 ――正確に言うと、数章読んで、やめる。文献は、David B. Morris, Illness and Culture in the Postmodern Age (Berkeley: University of California Press, 1998). モリスは1992年に The Culture of Pain という傑作を出版…

ラム氏、病気から回復する

チャールズ・ラムの『エリア随筆』の中に、「回復期の病人」 (Convalescent)というエッセイがあることを知って、しばらく前に憶えた Project Gutenberg からダウンロードして読む。文献情報は、Lamb, Charles, and Mary Lamb, The Works of Charles and Mary…

身体化されたフィクション

10年ほど前に出版された19世紀の文学作品における「身体化」の研究書を読む。文献は Vrettos, Athena. 1995. Somatic Fictions: Imagining Illness in Victorian Culture (Stanford, California: Stanford U.P.) (文献を掲げる位置を変えました)。 身体化 …

ヴィクトリア時代の病気の語り

19世紀イギリスにおける<病気の語り>の研究書を読む。 患者による病気の物語は、Illness narratives などと呼ばれて、何かのついでに研究するのではなくて、それ自体ひとつの研究対象となってきた。このジャンルを、Pathography と呼ぶ研究者もいるが、パ…

ロボトミーはなぜ流行ったか

アメリカのロボトミーの実践の歴史については、ケンブリッジ大学出版局から出ているプレスマンの著作が今のところの決定版である。ヒストリオグラフィも洗練されていて、最近の医学史研究で流行の「医学理論の歴史から医学の実践の歴史へ」という潮流にも乗…

電気ショックの最初の患者

1938年に、ローマ大学のチェルレッティは助手のビーニとともに、電気ショックによる痙攣で精神分裂病の患者を治療することに成功した。当時のチェルレッティの教室で研究をしていたドイツ出身で、ヒトラーの政権掌握後にイタリアに移住していたカリノウスキ…

メランコリアの歴史・アンソロジー

勤めている大学が通信講座を持っていて、連休明けにラジオ放送の収録がある。文化と精神病という大きなテーマで、ルネッサンスのメランコリーと、宗教改革期の悪魔憑きと、19世紀のヒステリーについて、3回にわけて一般的なことを話そうと思っている。 その…