Entries from 2018-11-01 to 1 month

三千院と桂離宮

一泊で三千院と桂離宮に行ってきました。大原の地は千有余年前に魚山と呼ばれ、仏教音楽(声明・しょうみょう)の発祥の地であるとのこと。とても大切なことですが、初めて知りました。2016年の年末に実佳と娘が行ったのですが、その時に私は行っておらず、…

ウォンバットという有袋類の話

www.lrb.co.uk LRBの 11 October 2018号に Katherine Rundell が面白い記事を掲載。ウォンバット wombat というオーストラリアの有袋類の話である。 ウォンバットは、カピバラとコアラと小熊に似ているが、アナグマには似ていない。動きはものすごく迅速であ…

最後の開花をまだ続けているバラ・できなかったバラ

今朝の庭。今年最後の開花をまだ続けているデズデモーナと、力尽きたガートルード・ジキル。色々と思うことが多い二つの光景。そして、デズデモーナを色々な意味で最高傑作だという作庭師の言葉を認識しました。

下田次郎『胎教』

下田次郎. 胎教. 増訂 edition, 實業之日本社, 1923. 下田次郎という東京女子高等師範学校の教授のヒット作の一つが『胎教』である。1913年に書かれ、1923年には増補改版されている。下田次郎は東大の文学部哲学科で教育学を学び、イギリス、アメリカ、ドイ…

日本帝国による1940年代の高砂族の眼科学的調査

1944年から45年にかけて『台湾医学会雑誌』に、4つに分割された論文が刊行。全体としては「高砂族の眼科学的調査」と題され、四つの論文は、サイシアト族、タイヤル族、不明だがおそらくブヌン族、アミ族と題されている。不明というのは、1945年の44巻1号に…

千鳥格子とアルハンブラ

家の布団カバーはロンドンのV&Aで買った。10年くらい使っているが、はじめて千鳥格子の模様だと気がついて、実佳に聞いてみたら、これは「アルハンブラ」という名前で売っていたとのこと。ネットで千鳥格子を調べたりアルハンブラを調べたりして、この二つが…

症例とアーカイブズー歴史学と批評理論の解釈

Anderson, Warwick. "The Case of the Archive." Critical Inquiry, vol. 39, no. 3, 2013, pp. 532-547, doi:10.1086/670044. ウォリック・アンダーソン先生はオーストラリアの優れた医学史研究者で、アジア研究にも貢献している。フーコーや批評理論などを…

第一次大戦期の精神病院における壊滅的な死亡率ーベルギー編

historypsychiatry.com 第一次大戦期の精神病院。イギリスの精神病院では、戦争神経症を確定的に発見して、現代の男性と現代生活のストレスの関係を読み解いた重要な貢献をしました。それと同時に、ドイツでは、異様に高い死亡率が記録され、栄養や生活状態…

自殺の多様性と「180度反転した殺人行為としての自殺」

Wallace, S. E. and A. Eser (1981). Suicide and euthanasia: the rights of personhood, University of Tennessee Press. 生命倫理学の議論の中で日本と欧米の自殺の議論が違っていた記憶がある。現在の状況はどうなっているのだろうか全く知らないが、日…

ネアンデルタール人の面白さ

小野, 昭. (2012). ネアンデルタール人奇跡の再発見, 朝日新聞出版. ネアンデルタール人について学者たちが合意していることを知ろうとしたけれども、それは私が理解できる形では提示されていない。しかし、日本の考古学者が書いたネアンデルタール人の人骨…

アルフレッド・ジャリと「パタフィジックス」と精神疾患

www.oed.com 数日前の OED の今日の英単語が pataphysics という英単語を掲げていた。これは、フランスの近現代の作家であるアルフレッド・ジャリ(1873-1907) が作り出した概念である。自由自在な勝手さを持ち、一方で鉄の規則に厳密に従いながら、へんてこ…

『グロテスク』などの復刻資料ー性と薬学

叢書エログロナンセンス 第Ⅰ期 グロテスク 全10巻+補巻 - ゆまに書房 ゆまに書房の方が『グロテスク』『文藝市場/カーマシャストラ』『談奇党』『猟奇資料』などの復刻資料のパンフレットを置いてくださった。とても面白い雑誌である。どの程度深くかかわっ…

『チューリップ・フィーバー』

午前中に映画を観てきた。『チューリップ・フィーバー』という17世紀のアムステルダムがチューリップ・マニア(英語では tulip mania) となった時の人々を描いた映画。 たまたま私の仕事で18世紀のオランダの医学史の部分を書いたりしたこともあって、とても…

1855年のクリミア戦争後の「戦争神経症」の世界で初めての写真?

実佳がBBCの記事を教えてくれた。1855年にクリミア戦争で撮影された将軍バルゴニー卿の写真。最初の戦争神経症の写真とか。 www.bbc.com

アメリカのワクチン注射後のネガティヴ効果

https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5717a2.htm Sutherland, A. et.al., Syncope After Vaccination --- United States, January 2005--July 2007, MMWR, May 2, 2008 / 57(17);457-460. 2005年から2007年にかけての新しいワクチン導入にともなっ…

新企画:健康の歴史とエコロジーです!

https://www.upress.pitt.edu/series/histories-and-ecologies-of-health/ 香港大学のロバート・ペッカム先生から新しい出版企画のおしらせ。ピッツバーグ大学から「健康の歴史とエコロジー」というシリーズの出版です。日本の状況は、福田先生、脇村先生、…

18世紀ロンドンの庭と植物

Longstaffe-Gowan, Todd. The London Town Garden 1700-1840. Yale University Press, 2001. 18世紀になると植物園・薬草園と個人の邸宅の境界があいまいになるケースが多数現れる。ロンドンの大都市に位置する個人の家に、植物園のような優れた庭を作ろうと…

漢代雙鳥之鈴(笑)

アフリカの彫刻と中国の古美術を少しだけ集めています。今年買うことができたのは、漢代の二羽の鳥の飾り。体内に鈴を持って音が響く細工です。具体的にはどのような機能を果たすものなのか古美術屋さんにもわからないとのことですが、漢代であることは間違…

集団心因性疾患 (Mass Psychogenic Illness, MPI) の論文メモ

集団心因性疾患についていくつかの短い論文を読んでメモ。これを 疾患 と呼ぶことはどうなっているんだろう。英語の illness を 疾患 と呼んでいいのだろうか。調べておこう。 Philen, RossanneM et al. "Mass Sociogenic Illness by Proxy: Parentally Repo…

胎児の辰砂入り保存標本と人工的なガラスの眼球

Boer, Lucas et al. "Frederik Ruysch (1638–1731): Historical Perspective and Contemporary Analysis of His Teratological Legacy." Americal Journal of Medicial Genetics A, vol. 173, no. 1, 2017, pp. 16-41, doi:doi:10.1002/ajmg.a.37663. ルイシ…

ロシア・インフルエンザ(1889-90)の拡大の進路

ロシア・インフルエンザは1889年に始まって1890年に流行が一応終わっている。20世紀には著名な3つのパンデミックがあり、スペイン・インフルエンザ (1918)、アジア・インフルエンザ (1957)、そして香港インフルエンザ (1968) であるが、その前のパンデミック…

20世紀のヨーロッパと日本の戦争における残虐性について

今日のEconomist Espresso におけるとても面白いグラフ。20世紀における戦争の死者を掲げたグラフであり、授業などで用いるのにとても便利である。基本は、20世紀の戦争における兵士と市民の死者数を、人口10万人あたり何人かの比率で示している。ジェノサイ…

ロシアの優生学の歴史の新刊・PDFだと無料です!

With and Without Galton: Vasilii Florinskii and the Fate of Eugenics in Russia - Open Book Publi 優生学と言えばナチスドイツだけを取り出すパターンはだいぶ前に消えた。19世紀から現在まで、各国によって同じ優生学なり民族衛生の同じ言葉で大きく異…

戦時看護と第一次大戦中の旧ルーマニア女王の病院訪問の動画

www.historytoday.com History Today の記事のメールでのお知らせが来た。その中の一つの記事で、旧ルーマニア女王であるマリー女王が第一次大戦中の兵士が収容された病院を訪問した動画がアップされている。マリー女王はヴィクトリア女王の孫娘にあたり、イ…

渋沢栄一と勘当の話

渋沢栄一 (1840-1931) をご存知の方が多いと思う。私はいま本を書いている東京の精神病院の近くに住んでいた人物である。渋沢は時々その精神病院と関係を持つこともあるから、基礎的な文献である岩波文庫の『雨夜譚』を読んでみた。残念ながら精神病院そのも…

敗戦直後の迷信の実態と国家の迷信という問題

迷信調査協議会, et al. (1949). 迷信の実態, 技報堂. 子宮頸がんとワクチンとの関係で女性の迷信の集団発生に関して調べている。敗戦の直後に文部省が日本全国の各地において迷信がどう信じられているかを組織的に調査し、その結果を発表したもの。1946年に…

近現代東アジアにおけるジェンダーと健康の歴史

Liang, Q. and I. Nakayama (2017). Gender, health, and history in modern East Asia, Hong Kong University Press. 梁先生と中山先生にいただいた東アジアにおけるジェンダーと健康の歴史の論文集。日本の近現代のヒステリーについての論文を書く上で取り…

18世紀オランダの障害胎児の解剖学標本とそれをビンに保存する液体について

オランダの解剖学者のフレデリッヒ・ルイシュ (Frederik Ruysch, 1638-1731) の標本について学んだ。障碍を持った段階で解剖された標本と、その身体や臓器などをビンに入れて保存する液体や染料についての話である。 ルイシュはハーグで生まれ、ライデンで医…

庭のバラ02

庭のバラたちが今年最後の美しい花を咲かせています。上からガートルード・ジキル、クレア・オースチン、そしてデズデモナです。最後に付した昨日のデズデモナの写真と較べると、最後の一歩を進んだ様子がわかります。

閉じ込め症候群の現象学的解釈について

www.theneuroethicsblog.com 何度も日本にいらした医学史家である Fernando Vidal 先生による記事。ピアジェの研究、SF映画における医療の研究、そして近年は LIS の研究をしています。Locked-in Syndrome は「閉じ込め症候群」と訳すようです。医学書院の『…