Entries from 2014-03-01 to 1 month

病院と家庭を連関させる医療

Marland, Hilary and Jane Adams, “Hydropathy at Home: The Water Cure and Domestic Healing in Mid-Nineteenth-Century Britain”, Bulletin of the History of Medicine, 2009, 83: 499-529. 病院と家庭の間の連関を考えなければならない。特に、戦前日本…

医学史における症例の読み方

Theriot, Nancy, “Negotiating Illness: Doctors, Patients, and Families in the Nineteenth Century”, Journal of the History of the Behavioral Sciences, vol.37, no.4, 349-368, 2001. 大学院の医学史入門セミナーでは、方法論が鮮明に描かれている著…

日本の断種法論争:1934年

1933年にナチス・ドイツの断種法が制定された。アメリカの多くの州における類似の法案の制定よりも遅かったが、ドイツの医学と医療政策・生殖政策に注目してきた日本の医学界にとっては大きな意味を持つ国際的な動きであった。以前から優生学を唱えて『民族…

少女向け伝記のナイチンゲール

マーサ・ヴィチナス「ヒロインの条件―少女向け伝記に描かれたフロレンス・ナイチンゲール像」モニカ・ベイリー他『ナイチンゲールとその時代』小林章夫監訳(東京:うぶすな書院、2000), 149-173. 子供向けに書かれたナイチンゲールの伝記を分析した面白い…

リフトン『ヒロシマを生き抜く』(2009)

ロバート・J・リフトン『ヒロシマを生き抜く―精神史的考察』桝井廸夫・湯浅信之・越智道夫・松田誠思訳、上・下巻(東京:岩波書店、2009) 著者はアメリカの精神医学者で、1970年の翻訳刊行時はイェール大の精神医学の教授であったとのこと。原著は1968年に…

新大陸の人口減少―天然痘の処女地感染<以前>の人口減少について

マッシモ・リヴィ=バッチ『人口の世界史』速水融・斎藤修訳(東京:東洋経済新社、2014) 歴史人口学の第一人者が書いた分かりやすい人口の世界史。ペスト(黒死病)による人口減少と新大陸の人口減少についての記事を確認する。 処女地感染による人口減少…

連続凌辱者としてのヒグマというイメージ(よくわからない)

吉村昭『羆嵐』(東京:新潮社、1982) 吉村昭の作品は気がつくと読むようにしている。医学史分野では『ふぉん・しいほるとの娘』『日本医家伝』などの古典的な評論があり、地震の歴史では『関東大震災』『三陸海岸大津波』などを読んだ。先日、何かの本を調…

戦前期日本医学史のレファレンス

医学史研究のプロ向けの話を書く。 研究者はさまざまなレファレンスを使うが、その中で戦前期日本の医学史研究をする上で必須のレファレンスが『最新医薬品類聚』(1947-8)である。全五巻に薄い総索引が一冊ついている。 もともとは医薬品の物質名が掲載さ…

戦争直後の松沢病院―無断出院と自由恋愛

江副勉・台弘「戦後12年間の松沢病院の歩み」『精神神経学雑誌』vo;.60, no.9, 991-1006: 1958. 精神医学史の中で著名な論文の一つ。戦後の松沢病院における記録とヴィジョンの双方を記したもの。大きな一連の改革と新しい気運についての記録であると同時に…

1903年の女医論―どんな場に女医が必要か

三宅秀「女医に就て」『医談』no.79, 1, 1903, 1-9. 奨進医会総会席上初演 20世紀以前の医療において、医者に男性が非常に多いのは洋の東西を問わないだろう。なんらかの資格を持つ医者になるのは、圧倒的に男性である時代が長く続いた。中世から初期近代に…

サドの人生における二回の長期監禁

澁澤龍彦『サド侯爵の生涯』はいまから半世紀ほど前に出版され、現在では中公文庫に入っている。名著の一冊であろう。もちろんフランスの研究者たちによる研究や、フランスの学者たちが発掘して刊行した資料や書簡などを使っているのだが、その水準は非常に…

ナイチンゲールの「ランプ」

クリミア戦争の負傷兵の看護に赴いたナイチンゲールを国民的英雄にしたのは、1855年の『ロンドン画報』に掲載された「スクタリの病院におけるミス・ナイチンゲール」と題された版画である。(1)この像は、「ランプを持つ婦人」としてのナイチンゲールを聖…

『ナイチンゲール伝』書評

茨木保『ナイチンゲール伝 図説看護覚え書とともに』(2014)書評 フロレンス・ナイチンゲール(1820-1910)は、クリミア戦争(1853-56)におけるスクタリの陸軍病院の傷病兵の看護で国民的な英雄となり、帰国後に、イギリス陸軍の衛生・看護の改革、新たにイギリ…

女給になりたいとはどういうことか

今回は、妄想の中身を論じるということをやってみようと思っている。これは、一度やってみたことがあるけれども、方法として難しい。女給になりたいと思っている患者と、女給になった学習院の女学校の生徒について、二つ並べてみただけです。 F0004は34才で…

科学史・医学史とアーカイブズ

2014年度日本科学史学会生物学史分科会・夏の学校/第一報(2014年3月5日付) 科学史・医学史とアーカイブズ 【日程】 2014年 7月4・5・6日(金・土・日) 【場所】 仙台市民会館(宮城県仙台市青葉区桜ヶ岡公園4-1)※定員50名(先着順) 【開催目的】 今年…

アイヌについての短い説明をまとめた。

The Ainu were the indigenous people who inhabited in the northern parts of Japan, mainly the large island which is now Hokkaido, as well as maritime Siberia, the Amur River basin, Sakhalin, Okhotsk, and the Kurile archipelago. In the thirt…

放浪する梅毒の乞食芸人という伝承

松尾とし子が故郷で女中に聞いたとしてこのような話を語ったこと。13歳で1923年出版の「ふもれすく」を読んだというから、大正期に聞いた話ということになるだろう。松尾の故郷は佐賀県の武雄で、温泉地であったことに注意しておく。 「季子さんね、近頃ゲン…

17世紀における医療の需要の劇増について

Mortimer, Ian, “The Triumph of the Doctors: Medical Assistance to the Dying, c.1570-1720: The Alexander Prize Essay”, Transactions of the Royal Historical Society, 15(2005), 97-116. イングランド南東部の遺言関連の文書18,000点を検討して、そ…

看護の歴史 (Christopher Maggs)

クリストファー・マグズの看護の歴史を鳥瞰した有名な概説を読み返す。文献は、Christopher Maggs, “A General History of Nursing: 1800-1900”, in Companion Encyclopedia of the History of Medicine, eds. by W.F. Bynum and Roy Porter (London: Routle…

精神病院と舞踊の空間

精神病院と舞踊の空間 F0025 29才の既婚女性、日暮里出身で現住所は足立区、夫の職業は米屋、父母健康で同胞4人の3番目。昭和16年10月25日に入院し、3か月ほど入院して、17年1月15日に未治退院。病名は「躁」と記され、肺結核を合併している。彼女の同胞の一…

『濹東綺譚』と玉ノ井の酌婦の精神病

『濹東綺譚』と玉ノ井の酌婦の精神病 F0002 28才、玉ノ井の酌婦、1944.02.14-04.13, 麻痺性痴呆、未知退院 永井荷風の『濹東綺譚』を悪く言う人に出会ったことがない。昭和12年に発表された作品で、近代化と軍国主義へ進む東京の隅田川の向う岸を舞台にして…