Entries from 2014-01-01 to 1 year

「機械は生きている」(ダンス・アーカイヴ)

新国立劇場の「ダンス・アーカイヴ in Japan」という企画で、「機械は生きている」という主題が取り上げられる。 「ダンス・アーカイヴ in Japan」は、2014年に新国立劇場で行われた企画で、日本の現代舞踊の創始者から現代までの約100年について、保存され…

『ドン・ジョヴァンニ』(新国立劇場)

新国立劇場で『ドン・ジョヴァンニ』を観る。新国立劇場がこのプロダクションでドンを上演するのは数回目で、私も過去に少なくとも一回は観たことがある。場所をヴェニスに設定して、ゴンドラが動く水面の影が美しい。歌手たちも外国人の歌手たちは素晴らし…

『サマルカンドの金の桃―唐代の異国文物の研究』

エドワード・H・シェーファー『サマルカンドの金の桃―唐代の異国文物の研究』日本語版監修・伊原弘、日本語版訳・吉田真弓(東京:勉誠出版、2007) 中国の都には陸と海のシルクロードを通ってアジアの様々な文物が運ばれてきた。皇帝、貴族、高位の僧たちの…

保護兵と保育隊―日本陸軍において病的な素質の兵、虚弱兵、精神障害の兵が受けた処置

藤野豊編『大同保育隊報告』(東京:不二出版、2008) 十五年戦争極秘資料集という大部の復刻のシリーズがあり、日本の軍隊、特に陸軍に関連する医学の資料が多く含まれていて、とても役に立つ。清水寛先生が編集された全7冊の『戦争と障害者』は、日本の戦…

シンポジウム「痛みの文化史」

日時 10月25日(土)午後2時 ~ 午後6時 明治大学駿河台校舎リバティータワー12階(1123番教室) 午後2時から午後6時キャンパスへのアクセスhttp://www.meiji.ac.jp/koho/campus_guide/suruga/access.htmlキャンパス内マップhttp://www.meiji.ac.j…

スリメダンの鉄鉱山の労働者の阿片中毒

金子光晴は戦後に活躍した詩人。昭和3年(1928)から7年(1932)にかけて、妻と森三千代と二人でアジアとヨーロッパを放浪する旅に出る。その時に訪れたシンガポール、マレー、ジャワ、スマトラなどの記述をまとめて、昭和15年(1940)に出版したものである。具体…

吸血鬼と医師と貴族について―バイロンの侍医ポリドリによる怪物の創造

The Public Domain Review より、「吸血鬼」という怪物の形成について、面白い記事。 「吸血鬼」(vampire)は、現在の欧米と世界で最も著名な怪物である。この概念が文化のメインストリームに乗ったのは、19世紀の初頭である。具体的には、バイロンの大陸旅行…

記憶の心理学・芸術ワークショップ・医学史のアーカイブズ

ロンドンにあるウェルカム・コレクションは、世界でも最良の医学史アーカイブズの一つですが、現在、アーティストのセアラ・カーンと、ロンドンの大学の心理学の学生の協力を得て、医学史アーカイブズからどのような記憶が作り出されるかというワークショッ…

黒死病と細菌学―大阪大学グローバルヒストリー・セミナー(11月6日)

廣川先生から大阪大学で開催される、歴史と細菌学の文理融合の講演のご案内がありました。興味深い試みですね。 ★第44回のお知らせ下記の様に、新規に発足した大阪大学未来戦略機構・グローバルヒストリー研究 部門、および文学研究科グローバルヒストリー…

精神医学とメディアと文学

マリー・ボナパルト『精神分析と文化論』林峻一郎訳(東京:弘文堂、1971) マリー・ボナパルトはフランスの作家で精神分析家である。フロイトとも親しく、フランスへのフロイト派の導入に貢献した。ナポレオンの弟の曾々孫にあたり(英語で言うとナポレオン…

『水と原生林のはざまで』(1921)

シュヴァイツェル『水と原生林のはざまで』野村實訳(東京:岩波書店、1957) ポストコロニアリズムの登場で、大きくステータスを下げたのがシュヴァイツァーである。シュヴァイツァーは1875年にアルザス=ロレーヌ地方のカイゼルスブルクで牧師の家に生まれ…

イェルサンの伝記

スイス生まれでフランス国籍を取得し、ベトナムで没した医学者であるアレクサンドル・イェルサンの伝記がなくて困っていた。イェルサンの事績で最も重要なのは、1894年に香港でペスト菌を発見したことであるが、このときに北里柴三郎と競争になったため、恐…

「家族の外に住む人々」(戸田貞三)と精神医療

戸田貞三『家族構成』(1937; 東京 : 新泉社, 2001) 日本社会学の古典の一つ。1920年の国勢調査からのサンプリングを主たるデータとして、それ以外の比較的小規模の調査の結果も参考にして、日本国内のさまざまな地域に関して、家族構成を調べた著作である…

医療・文化・社会研究会―『小島の春』について

2014年度 医療・文化・社会研究会 第1回例会Medicine, Culture and Society Seminar Series日時:10月15日(水)17:00~19:00 高林陽展先生(清泉女子大学)から、医療・文化・社会研究会(旧医学史研究会)のご案内です。 場所:慶應義塾大学三…

日本の産婦人科の内診台の特徴

EAST 最新号に面白い論文。日本の産婦人科の内診台は世界でも特徴がある機材である。1980年代から導入されたタイプが重要であり、これだと、患者・産婦は椅子の形状の台に座るだけでよく、あとは椅子状の機材が動かされて検査されるため、患者が羞恥心を感じ…

イプセン『幽霊』と遺伝性梅毒

19世紀末から20世紀初頭にかけて文明国の人々の不安の中核の一つは、退化や変質と訳される degeneration であった。疾病の原因が遺伝して悪化することで、世代を経ると個人の質が低下していきこと、個人の集合である社会や国家も、体力や能力が退化していく…

『モレルの発明』と精神病の主題

Adolfo Bioy Casares, アドルフォ・ビオイ=カサーレス『モレルの発明』清水徹・牛島信明訳(東京:水声社、1990, 2008) 『モレルの発明』は、1940年にアルゼンチンの作家カサーレスが発表したSF小説であり、カサーレスはこの作品で名を成した。人間を撮影…

『ノア・ノア』より、「女性は暴力的な性的征服を求めている」という概念について

ポール・ゴーガン『ノア・ノア』前川堅市訳(東京:岩波書店、1932, 1960) 必要があってゴーガン『ノア・ノア』をチェックする。ゴーガンは20世紀の文化に大きな影響を与えた画家である。広義の印象派から出発したが、後年にタヒチに移住してそこで描いたタ…

『オペラ入門』

趣味はバードウォッチングと庭いじりと音楽で、音楽は聴くほうはクラシックとジャズ、演奏するほうはピアノをもう一度習いたいと思っている。クラシック音楽でよく聞くのは、ピアノとオペラで、特にオペラは、この25年くらいオペラハウスにいって聴いている…

植民地朝鮮の水田開発とマラリアー開発原病としての側面

朝鮮が日本に植民地支配されていた時期のマラリアについての原稿を読む。朝鮮に来たイギリス人は、インドや南アフリカと同じような「ヒル・ステーション」の原理を使って、低地を避けて近くの高い丘に住むことを進めたこと。マラリアの患者の年齢構成を調べ…

「ブロディーの報告書」

晩年のボルヘスの短編集が岩波文庫から翻訳されており、その末尾に収められている短編が「ブロディーの報告書」である。ブロディー博士なるスコットランド出身の宣教師が南米を訪れて、密林の中に「ヤフー族」なる原始的な人間の種族を発見し、彼らとしばら…

夢野久作と精神医学者・諸岡存

夢野久作と諸岡存 夢野久作のドグラ・マグラに影響を与えた精神医学者として、榊保三郎の研究室で助教授をしていた諸岡存(もろおか・たもつ 1879-1946)を上げなければならない。諸岡は、1935年1月末に東京の内幸町の大阪ビルの「レインボーグリル」で行わ…

ヒロポンについて

ヒロポンは戦後の坂口安吾などで有名だが、もともとは大日本製薬が昭和戦前期に売り出した薬品の商標で、もとはメタンフェミンの薬剤である。もともとは日本の長井長義が1888年に麻黄の成分を研究中に発見した物質で、その後ながく顧みられなかったが、1935…

夢野久作と精神医学

夢野久作の日記は息子の杉山龍丸が編集して公刊されているが、日記が残存している時期の問題もあって、『ドグラ・マグラ』の構想と精神医学の関係について、あまり多くを教えてくれない。当時の九州大学の医学部は、夢野が住んでいた香椎にほど近く、九大医…

生物兵器と V for Vendetta

V for Vendetta 映画 V for Vendetta を観た。原作は1982年のイギリスのコミック。2005年に映画化された。『マトリックス』のウォシャウスキー姉弟の脚本、ナタリー・ポートマンの演技が素晴らしい。イギリス系の実力派の俳優たちも見どころがある。 近未来…

精神医療の歴史とアート

9月13日(土)の13.00 より、恵比寿の waitingroom にて、若手アーティストである飯山由貴さんの個展が開催されます。さまざまな内容と形式のお仕事が展示されますが、精神医療の歴史、特に昭和戦前期の精神病院の歴史と深く関連する資料をマテリアルに使っ…

大正期の産婆・看護婦は「悪擦れ」した女性になるか?

谷崎潤一郎の短編「美男」は大正5年9月の『新潮』に発表された。ほぼ同時期の「亡友」と同じ、若き日の友人を記述するという形式である。「亡友」も性欲が主題であるが、「美男」も、女にもてるだらしない人物を記述している。「亡友」も面白いが、「美男」…

谷崎潤一郎の歯痛より・神経衰弱患者の幻想

谷崎潤一郎「病蓐の幻想」からメモ。大正5年(1916)の11月の『中央公論』に発表した短編で、全集の第4巻に入っている。とても面白い作品で、精神医学史の研究者は読んでおくべきである。また、後半は地震を不安に思う心理について、とても面白い記述がある。…

クリスティ『そして誰もいなくなった』『ポケットにライ麦を』

アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』And Then There Were None (1939) アガサ・クリスティ『ポケットにライ麦を』A Pocket Full of Rye (1953) 推理小説と精神医学の関係はとても深い。エラリー・クイーン『Yの悲劇』、ヴァン・ダイン『グリーン家…

医者たちから見た戦後の新しい女性

『正木不如丘作品集』全7巻(1967)の中から。 著作集の第2巻におさめられている「医学部教室展望」が面白い。「グレタ・ガルポ」というあだ名を付けられたとびきりの美人記者が、医学部の教室を次々と訪れるという設定の話である。連続ドラマや連載漫画にぴっ…