Entries from 2009-05-01 to 1 month

日本の戦争奴隷

必要があって、室町・戦国時代の日本の戦争の悲惨さを描いた書物を読む。文献は、藤木久志『飢餓と戦争の戦国を行く』(東京:朝日選書、2001)著者は日本中世史の偉い先生で、ソフトな語り口に鋭い問題意識と、あともちろん大変な博識で、沢山の書物を書い…

『三つのエコロジー』

未読山の中から、フェリックス・ガタリ『三つのエコロジー』を読む。杉村昌昭の訳が平凡社ライブラリーに収められている。私は、いわゆる現代思想の社会哲学の本を読むことはとても少ないけれども、たまに読むと(たまに読むからこそ、なのかもしれない)、…

番太郎が見張っていたもの

しばらく前の記事でクイズ形式で出した問題の答えです。 京阪の豪勢な家には番小屋があり、夜はそこに提灯を掲げて、見張りがいましたが、その見張り(「番太郎」)は何を見張っていたのかという問題でした。正解は、「捨て子」です。 これは私がまったく門…

ディーテイルズNo.14 第二ヒント

久しぶりの「ディーテイルズ」です。 絵の一部を見て、全体を答えるべたなクイズです。 この二つの部分は、どの絵の一部でしょうか? 解答は「内緒」でお願いします。これまでの13回の中で「正解者なし」が1回ありますが、12回は驚異的なスピードで正解者が…

天平の天然痘の死亡率

データを確かめて、天平7年から9年の天然痘でどのくらいの人が死んだか、ちょっと推算してみた。データは、早川庄八「公げ(まだれに「解」)稲制度の成立」『史学雑誌』69(1960), no.3, 1-53. から取った。しばらく前にも触れたが、出挙(すいこ)で貸し付…

20年前の医療改革

必要があって、20年前の医療改革を論じた論文集を読む。文献は、姉崎正平・池上直己編『世界の医療改革―政権交代は医療を変えるか』(東京:勁草書房、1991)医療政策の国際比較という主題は、政治学者や社会学者が論文を書きやすいテーマである。先進国だと…

帝国とハンセン病

必要があって、帝国とハンセン病についての文化史の書物を読む。文献は、Edmond, Rod, Leprosy and Empire: a Medical and Cultural History (Cambridge: Cambridge University Press, 2006) 著者の説明によると、もともと南太平洋を舞台に「らい病」を主題…

旧石器捏造と邪馬台国

必要があって、日本史の古いところについての概説書を読む。文献は、白石太一郎編『日本の時代史1 倭国誕生』(東京:吉川弘文館、2002)旧石器時代から縄文・弥生時代を経て、邪馬台国の時代にいたるまでの日本史の概説で、私が高校の教科書で習っておぼろ…

徳川幕府の医家・多紀氏

必要があって、徳川幕府の医学界の中心であった「多紀氏」についての書物を読む―というか、使い方を確認する。文献は、森潤三郎『多紀氏の事蹟』(京都:思文閣出版、1985) 1985年に刊行されているが、もとはと言えば昭和8年に出た書物を再版したでものであ…

エビデンス・ベイスド・メディシン

新着雑誌が、エビデンス・ベイスド・メディシンの特集だったので、イントロダクションなどだけ、さっと目を通す。文献は、Perspectives in Biology and Medicine, 52(2009), no.2. EBMが導入されたときには、反権威主義なものとして捉えられていたという。か…

「棘には手を触れずに、バラを摘みなさい」

無駄話をする。チェチーリア・バルトリという、イタリアのオペラ歌手がいる。その艶やかな歌声はファンが多く、ゴージャスな容姿は中年男性の圧倒的な人気を集めている(笑)。私もご多聞にもれず、何枚か彼女のCDを持っている。彼女がわりと最近に出したア…

『ミュータント』

未読山の中から、人間の突然変異についての書物を読む。文献は、Leroi, Armand Marie, Mutants: on Genetic Variety and the Human Body (London: Penguin Books, 2003). 著者は一流の生物学者で、なおかつ生物学の歴史や文化について豊富な知識と的確な洞察…

漢の時代の中国医学

必要があって、古代中国の医学についての論文を読む。文献は、Needham, Joseph, and Lu Gwei-Djen, “Hygiene and Preventive Medicine in Ancient China”, Journal of the History of Medicine and Allied Sciences, (1962), 429-478.20世紀の後半に中国の科…

唐の時代の中国の疫病

必要があって、唐の時代の中国の疫病を論じた研究論文を読む。文献は、Twitchett, Denis, “Population and Pestilence in T’ang China”, in Wolfgang Bauer ed., Studia Sino-Mongolica: Festschrift fuer Herbert Franke (Wiesbaden: Steiner, 1979), 35-68…

ブラウン=セカール

必要があって、19世紀の神経学者、ブラウン=セカールの講義録を読む。文献は、Brown-Sequard, C.E., Course of Lectures on the Physiology and Pathology of the Central Nervous System (Philadelphia: Collins, Printer, 1860). 医学史系の本のリプリン…

内分泌学の歴史

必要があって、内分泌学の歴史を論じた書物を読む。文献は、Sengoopta, Chandak, The Most Secret Quintessence of Life: Sex, Glands, and Hormones, 1850-1950 (Chicago: University of Chicago Press, 2006). 20世紀に進歩した医学の分野の歴史というのは…

生化学者とホルモン

必要があって、内分泌学の発展の初期の生化学者についての研究を読む。文献は、Oudshoorn, Nelly, “Endocrinologists and the Construction of Sex, 1920-1940”, Journal of the History of Biology, 23(1990), 163-186.医学史の尺度で言うと、「ホルモン」…

人種と歴史

必要があって、レヴィ=ストロースがユネスコのために書いた人種をめぐる小論を読む。文献は、クロード・レヴィ=ストロース『人種と歴史』荒川幾男訳(東京:みすず書房、1970)。ずっと読みたかったのだけれども、実際に読む機会に恵まれなかった。色々な…

マンソン以前の熱帯医学

必要があって、熱帯医学の周辺の領域の研究を集めた論文集を読む。文献は、Arnold, David, ed., Warm Climates and Western Medicine (Rodopi: Amsterdam, 1996)「熱帯医学」という学問領域は、パトリック・マンソンとともに1900年くらいに始まるということ…

江戸時代の大店が「見張って」いたもの

必要があって、『近世風俗誌』を読みなおす。岩波文庫の5冊本で、江戸、京都、大阪の人々の暮らしぶりが書いてある。喜田川守貞という人物が19世紀の日本の都市の風俗について書きしるしたもの。絵もはいっているし、百科事典風に分類されているので、とても…

『毒と薬の世界史』

未読山の中から、中公新書から出ている船山信次『毒と薬の世界史―ソクラテス、錬金術、ドーピング』を読む。毒と薬についてのちょっと気が利いたエピソードをたくさん拾ってきて、それを年代順にざっと配列してできた新書。ソクラテスはドクニンジンを飲んだ…

山田慶児『中国医学はいかにつくられたか』

必要があって、私が知る限りでは、中国医学史の最良の入門書(という言い方は正確ではないけれども)を読み直す。文献は、岩波新書から出ている、山田慶児『中国医学はいかにつくられたか』(1999)中国医学史のイロハくらい知っておきたいと思って、中国医学…

エチオピアの発疹チフス

必要があって、19世紀から20世紀のエチオピアの発疹チフスについての論文を読む。文献は、Pankhurst, Richard, “Some Notes for the History of Typhus in Ethiopia”, Medical History, 20(1976), 384-393.エチオピアの発疹チフスで、最初の信頼できる報告は…

ディーテイルズNo.14

久しぶりの「ディーテイルズ」です。 絵の一部を見て、全体を答えるべたなクイズです。 この年齢階層別死亡率曲線のような形(笑)は、どの絵の一部でしょうか? 解答は「内緒」でお願いします。これまでの13回の中で「正解者なし」が1回ありますが、12回は…

海軍と南方進出

必要があって、日本の帝国時代の南方進出についての論文を読む。文献は、Peattie, Mark R., “Nanshin: The ‘Southward Advance,’ 1931-1941, as a Prelude to the Japanese Occupation of Southeast Asia”, in Peter Duus, Ramon H. Myers, and Mark R. Peat…

発疹チフスの歴史

必要があって、発疹チフスの歴史で、疾病史の古典的な著作である、ハンス・ジンサー『ネズミ・シラミ・文明』を読む。橋本雅一訳がみすず書房から出ている。何回か目を通したことがあったけれども、今回は、発疹チフスについてちょっと真剣に調べ物をしてい…

アメリカ移民の医学

必要があって、アメリカへの移民に対して行われた医学検査・健康診断について論じた本を読み返す。Fairchild, Amy L., Science at the Borders: Immigrant Medical Inspection and the Shaping of the Modern Industrial Labor Force (Baltimore: The Johns …

科学実験室の「碁」

必要があって、科学実験室でフィールドワークをして科学的知識が「つくられる」ダイナミズムを論じた科学論の古典を読み直す。文献は、Latour, Bruno and Steve Woolgar, Laboratory Life: the Construction of Scientific Facts, introduction by Jonas Sal…

知識の工場としてのパブロフの実験室

必要があって、パブロフのイヌの消化腺の実験を詳細に分析した書物を読む。文献は、Todes, Daniel, Pavlov’s Physiological Factory: Experiment, Interpretation, Laboratory Enterprise (Baltimore: The Johns Hopkins University Press, 2002).パブロフは…

20世紀のウイルス概念

必要があって、20世紀のウイルス概念の歴史を論じた論文を読む。文献は、Helvoort, Ton van, “History of Virus Research in the Twentieth Century: the Problem of Conceptual Continuity”, History of Science, 32(1994), 185-235. 専門家から見ると笑っ…