Entries from 2012-04-01 to 1 month

大正の少年受刑者の夢

苅谷哲公「少年受刑者は如何なる夢を結ぶ乎」『変態心理』2巻7号(1918), 455-461.著者は福岡監獄の教授主任とある。18歳未満の少年105名の夢を調査し、287件の夢を得た結果の分析である。多い夢をメモするだけにする。放免されて家郷にいる―20帰宅して親に…

昆虫の性の魅惑

北野博美「性欲衝動の精神生活に及ぼす影響」『変態心理』2巻8号(1918), 522-531.下等生物における心理や運動は、20世紀の前半には精神病を理解する重要な鍵となった。この論文は、昆虫や魚類や鳥類、そして「野蛮人」から話を始めて、その性が精神にどの…

ナチズムの思想

アルフレット・ローゼンベルク『20世紀の神話―現代の心霊的・精神的な価値闘争に対する一つの評価』吹田順助・上村清延訳(東京:中央公論社、1938)必要があって、ナチスの論客による文明論を読む。ローゼンベルクはバルト地方のドイツ人の家系の出身で、18…

右田裕規『天皇制と進化論』

右田裕規『天皇制と進化論』(東京:青弓社、2009)戦前における天皇制と進化論の複雑な関係を論じた書物である。着眼もよく、すぐれた書物だと思う。基本的な軸は、皇国史観と進化論は対立する可能性がある思想であり、実際に対立したということである。い…

1949年の学生性行動調査

朝山新一『現代学生の性行動』(京都:臼井書房、1949)朝山新一は大阪市立大学の教員で、関西地方の大学予科、高等学校、専門学校などを中心にして男子約700名、女子約300名を選んで詳細な性行動調査を行い、1949年に出版した。この調査には、京都大学の動…

原武史『可視化された帝国』

原武史『可視化された帝国』(東京:みすず書房、2001)精神医療の研究のヒントを求めて、近代の天皇の行幸を素材にして「視覚的な権力」を論じた書物を読む。素晴らしいヒントをもらった。タカシ・フジタニが日本における「想像の共同体」の成立について論…

アウグスティヌスの結婚と性の思想

Peter Brown, The Body and Society のアウグスティヌスの部分を読み直す。アウグスティヌスは、ブラウンが言うところの「砂漠の思想」に向き合って、結婚を正当化する一方で、性の快感に心理的な深い不安を与えた。即ち、初期キリスト教が持っていた、人間…

キリスト教社会の形成と身体

必要があって、『私生活の歴史―古代からビザンティンまで』の中のピーター・ブラウンによる章を読む。文献は、Brown, Peter, “Late Antiquity”, in Paul Veyne ed., A History of Private Life I: From Pagan Rome to Byzantium, translated by Arthur Goldh…

ポール・ヴァレリー「身体に関する素朴な考察」

ポール・ヴァレリー「身体に関する素朴な考察」『ヴァレリー・セレクション』上・下巻、東宏治・松田浩則訳(東京:平凡社、2005 )、下巻237-253ページ。「血液と私たち」という表題を付されたひとまとまりの内容を持つ断章群が一つ、「三つの身体の問題」…

ロンドンの公衆衛生資料の決定版のデジタル化

ウェルカム・ライブラリーが、ロンドンとその近郊の保健医官 (Medical Officer of Health) の報告書をデジタル化する計画を発表した。これは、1848年から1972年までの、約7,000点の報告書をデジタル化し、約40万ページのテキストをOCRしてダウンロード・検索…

チャールズ・C・マン『1491 – 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』

チャールズ・C・マン『1491 – 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見』布施由紀子訳(東京:NHK出版、2007) アメリカの優れたサイエンス・ライターの一人で、アスピリンの誕生から100年をまとめた『アスピリン企業戦争』という優れた著作もあるチャール…

国立療養所史研究会編『国立療養所史』

国立療養所史研究会編『国立療養所史』(東京:厚生省、1975)明治以降の日本の医療や病院は、西洋の病院と大きく違って、もともと民間が担い手であった。公立といっても府県立や市立などの地方自治体が主力であったため、国立の病院や療養所の誕生は非常に…

ギリシアにおける身体の発見

Holmes, Brooke, The Symptom and the Subject: The Emergence of the Physical Body in Ancient Greece (Princeton: Princeton University Press, 2010)必要があって古代ギリシアにおける「身体」と「主体」の形成についての傑作を読む。古代ギリシアにおい…

敬虔な優生学者 アレクシス・カレル

Reggiani, Andr?s Horacio, God’s Eugenicist: Alexis Carrel and the Sociobiology of Decline, with a foreword by Herman Lebovics (New York: Berghahn Books, 2007).アレクシス・カレルはフランスで生まれて医学教育を受け、カナダとアメリカに移住して…

『最高の人生をあなたと』

イザベラ・ロッセリーニは、『ブルー・ベルベット』と化粧品のランコムのコマーシャルで、私が20代だったときの憧れの女優だった。彼女が40歳になったときにランコムから契約を打ち切られたことが話題になったときに、ランコムの仕打ちに怒るというよりも、…

スヒーダムの聖女リドヴィナ

Bynum, Caroline Walker, Holy Feast and Holy Fast: The Religious Significance of Food to Medieval Women (Berkeley: University of California Press, 1987)いくら豊かな資料でも、さすがに小説家のテキストだけを裸のまま学生に提示することはできない…

ユイスマンス『スヒーダムの聖女リドヴィナ』

J.K. ユイスマンス『腐爛の華―スヒーダムの聖女リドヴィナ』田辺貞之助訳(東京:国書刊行会、1984)恥ずかしながらこの作品を知らなかった。中世の身体の歴史に学生が触れることができるすばらしい素材の一つであることは間違いない。リドヴィナについては…

ラインベルガー「自然と文化を超えて」

Rheinberger, Hans-Joerg, “Beyond Nature and Culture: A Note on Medicine in the Age of Molecular Biology”, Science in Context, 8(1995), 249-263.必要があって、ラインベルガーの有名な論文をもう一度読む。「自然」と「文化」の存在論的な違いと、両…

ベリオス先生の講演(5/22)

5月22日の5時から、慶應義塾大学三田キャンパスで、ケンブリッジ大学の精神医学の教授、ハーマン・ベリオス先生にご講演をいただけることになりました。ベリオス先生は、ペルーに生まれ、オクスフォードで精神医学と哲学を学ばれました。特に、チャールズ・…

アイヌ頭骨の損傷の原因

植木哲也「児玉作左衛門のアイヌ頭骨発掘」(1)-(3) 『苫小牧駒澤大学紀要』no.14, 2005, 1-27;『苫小牧駒澤大学紀要』no.15, 2006, 119-152; 『苫小牧駒澤大学紀要』no.16, 2006, 1-36.連作論文の(3)で論じられているのが、アイヌ人骨にある割合で発見さ…

植木哲也「児玉作左衛門のアイヌ頭骨発掘」

植木哲也「児玉作左衛門のアイヌ頭骨発掘」(1)-(3) 『苫小牧駒澤大学紀要』no.14, 2005, 1-27;『苫小牧駒澤大学紀要』no.15, 2006, 119-152; 『苫小牧駒澤大学紀要』no.16, 2006, 1-36.必要があって、昭和戦前・戦後期にアイヌの人骨を学術研究の目的で発掘…

植木哲也「隠された知―アイヌ教育と開拓政策」

植木哲也「隠された知―アイヌ教育と開拓政策―」『苫小牧駒澤大学紀要』no.12, 2004, 17-32.大正から昭和戦前期のアイヌの窮状を救うための政策の背後にある思想を分析した論文。1918年の『調査』などを素材にして、二つの互いに矛盾する思想が併存していたこ…

倒錯の歴史

Roudinesco, Elizabeth, Our Dark Side: A History of Perversion, translated by David Macey (Oxford: Polity Press, 2009).ルーディネスコは、フランス革命期の女性の政治運動家で精神病患者の生涯を描いた『革命と狂気』の著者として知っていた。歴史学…

精神病患者の絵画

野村章恒「非定型性診断不明の中酒性精神病の精神病理学的考察」『神経学雑誌』34(1932), 374-398.精神病患者の絵画研究で著名な野村が書いた本格的な研究。松澤病院に入院した患者が、現在で言うアルコール依存症である「中酒性精神病」の症状であった。た…

外須美夫『痛みの声を聴け』

外須美夫『痛みの声を聴け―文化や文学の中の痛みを通して考える』(東京:克誠堂出版、2005)著者の外先生(「ほか」と読み、鹿児島ではそれほど珍しくない名前とのこと)は、現在は九州大学の麻酔科の教授である。著者とは、ある闘病記関連のシンポジアムで…

アンジェロ・モッソ『恐怖の生理学』

恐怖の生理学Mosso, Angelo, Fear, translated from the 5th edition of the Italian by E. Lough and F. Kiesow (London: Longmans, Green, and Co., 1896)著者、アンジェロ・モッソ(1846-1910)はイタリアの生理学者で、トリノ大学の教授をつとめた。Wiki …

内村「アイヌの潜伏梅毒について」

内村祐之・秋元波留夫・石橋俊実・渡辺栄市「アイヌの潜伏梅毒と神経梅毒(アイヌの精神病学的研究 第2報)」『精神神経学雑誌』42(1938), no.11, 811-848.内村によるアイヌの精神医学研究の一つであり、クレペリンの帝国精神医学の関心が最も鮮明に表現され…

内村『日本の精神鑑定』

内村祐之他『日本の精神鑑定』(東京:みすず書房、1973)内村祐之と吉益脩夫が中心となって、世間の耳目を集めた事件を選び、被告の精神鑑定に若干の手を入れて掲載した書物である。同様の精神鑑定書は、内村の前の東大教授である呉秀三も三宅鉱一も編んで…