Research Memos

小泉和子『家で病気を治した時代

小泉和子『家で病気を治した時代』に英語でコメントです。とてもいい本でした。結核が家で「治されていた」ことが詳細に触れられていますが、同じ時期にはもちろん精神病も家で治されていました。そのイメージを造るためにも、私がもっとすぐに読んでおかな…

富岡直方『日本猟奇史』全4巻再刊

富岡直方が1932-33に出版した一連の日本の猟奇関連の著作のリプリントです。江戸から明治・昭和へと並べてみると、「猟奇」における連続と不連続がわかりやすく浮かび上がってくる気がします。英語のコメントです。http://www.facebook.com/akihito.suzuki.7…

石橋俊実他「アイヌの性格」『民族衛生』(1944)

石橋俊実・岡不二太郎・和田豊治「アイヌの性格―青少年における調査にもとづいて―」『民族衛生』vol.12, no.6, 1944: 339-352.北大精神科の石橋俊実は1942-3年にアイヌの青少年150人程度に性格検査を行いました。内村祐之の時代の梅毒検査・分裂病等の検査…

西内啓『統計学が最強の学問である』(東京:ダイヤモンド社、2013)

西内啓『統計学が最強の学問である』(東京:ダイヤモンド社、2013)Comments in Englishhttp://www.facebook.com/akihito.suzuki.7505

井村恒郎「戦争神経症の印象」

井村恒郎「戦争神経症の印象」『青年心理』, 7(1), 87-90, 1956.English summaryhttp://www.facebook.com/akihito.suzuki.7505

都会と田舎とヒステリーと神経衰弱

井村恒郎「都市と農村における神経症の比較調査」『精神衛生研究』vol.2, 1954-2: 21-29.国府台の精神衛生研究所の井村と、群馬大学の精神科のチームが協力して行った、都市部と地方部における神経症の比較である。国府台病院と群馬大の外来の二つの組織をベ…

日中戦争下の廣東における精神病一斉調査

笠松章「廣東地方に於ける比較精神医学一資料」『精神神経学雑誌』vol.46, no.4, 1942: 188-194.東大精神科を卒業した内村祐之の弟子で、軍医として応召されて南支の廣東地方の一部落に2年半駐留した。笠松が「B郷」と呼ぶこの部落は人口は7,000人ほどだが、…

第二次大戦時ビルマにおける精神病調査

加藤正明「ビルマ民族の精神医学的考察」『精神神経学雑誌』vol.49, no.6, 1947: 112-115.短い論文だが、重要な意味を持つ。日本の帝国精神医学はのちに東大教授となった内村祐之が1930年代にアイヌを対象として始めて、進化論的な症状の解釈方法を確立した…

外傷性神経症と労災とキリスト(笑)

高橋正義、水町四郎、高臣武史、宮司克己「外傷性神経症」『日本医師会雑誌』35巻10号,1956: 539-552.「外傷性神経症」は日本では1920年代から既に議論の対象となっていた疾患であったが、戦後になると、その存在自体を否定する声は少なくなり、労働災害にま…

九大の電気痙攣療法

安河内五郎・向笠廣次「精神分離症の電撃痙攣療法について」『福岡医大誌』vol.32, no.8: 1939, 1437-40.1930年代は、精神分裂病の治療における大きな転機が準備されはじめた時期であり、基本的には不治であると考えられていた分裂病に対して、効を奏するい…

血族婚と精神障碍の重積

岡部 重穂「血族婚地域における精神医学的一斉調査」 『精神神経学雑誌』59(8), 1957, 663-676.1957年に受理された論文であるが、調査が実施されたのはそれよりも15年ほど前の1942年である。7月1日から鹿児島県の甑島において2週間にわたって行われた。著者…

精神疾患の「淘汰」の問題

新井尚賢、柴田洋子、飯島泰彦、赤羽晃、戸田賢江、丸山俊男「秩父山村における一斉調査による精神医学的考察ならびに他農村との比較」『精神神経学雑誌』60(5), 1958: 475-486.血族結婚、分裂病の寛解と社会生活の地域差などの問題について、素晴らしい洞察…

内村祐之からメモ

内村祐之は、日本が生んだ精神医学の「スター」の一人であったが、その理由は、父親が内村鑑三だったこと、一高のエースピッチャーだったことなどにあると思われる。しかし、もし精神医学から「スター」が出るとしたら、内村の時代なのかなあという、構造的…

戦後も継続した戦争神経症

今泉恭二郎・清水英利・氏原敏光・佐々木敏弼・元木啓二・森井章二「第二次大戦中発呈し現在に至るまで戦争神経症状態をつづけている2症例」『九州神経精神医学』13巻3号、1966: 643-648.戦争神経症が継続していること、5年ごとに軍人傷病恩給の申請が更新さ…

アウシュヴィッツの「死の天使」

ジェラルド・アスター『最後のナチ メンゲレ』広瀬順弘訳(東京:読売新聞社、1987)医師・医学者でアウシュヴィッツの「死の天使」として悪名高いヨーゼフ・メンゲレの一般向けの評伝を読む。アウシュヴィッツの強制収容所に収容された生存者の手記などが中…

泉鏡花「婦系図」

泉鏡花『婦系図』鏡花の夢幻・怪異系の作品を読んで、昔はよく分からなかった作品が心に響いたので、鏡花を読む時期なのかもしれないと思って、「婦系図」を読んでみた。大学生に入ったばかりの頃に読もうとして、退屈で退屈ですぐに投げ出した作品である。…

皮膚科学の模型像(ムラージュ)の日本への導入

石原あえか「日本におけるムラージュ技師の系譜―ゲーテを起点とする近代日独医学交流補遺」『言語・情報・テキスト』東京大学大学院総合文化研究科・言語情報科学専攻紀要、19(2012), 1-12.「ムラージュ」というのは、医学教育で用いられる精密な病理標本…

泉鏡花「海神別荘」

泉鏡花「海神別荘」鏡花全集で「天守物語」と収めたのと同じ巻(二十六巻)の別の戯曲「海神別荘」が面白かったので読んでみた。「天守物語」が天守閣の最上層を舞台にした空を飛ぶ魔物と鷹の話だとしたら、「海神別荘」は、その名が示す通り、海底に住まう…

井村恒郎「敗戦国の妄想狂」

井村恒郎「敗戦国の妄想狂」『現代心理』1巻7号1947: 27-35.戦前・戦中・戦後と精神病医患者の妄想を診てきた医学者が、戦争をはさんでどのように妄想が変わったのかを論じているエッセイで、ものすごく面白い。神経症のような精神異常なら、戦争のような社…

泉鏡花『天守物語』

泉鏡花『天守物語』『天守物語』は大正6年に発表された戯曲であるが、鏡花は自作が上演されるのを観ることができず、初演は昭和26年の花柳章太郎であった。2011年に新国立劇場で公演された時に見損ねたのが口惜しい。映画化は1995年の坂東玉三郎・宮沢りえの…

新着雑誌 History of Psychiatry

History of Psychiatry 2013年3月号。論文が6点に古典翻訳と書評が5点。6つの論文は、まず一つめは北ウェールズの精神病院の症例誌をもとにして、1875-1924年と1995-2005年の二つのコホートにおいて、メランコリー/重度うつ病の研究。死亡率はいずれのコホ…

東南アジア医学史学会

2014年1月に、マニラのアテネオ・デ・マニラ大学で、「第5回・東南アジア医学史学会」が開催されます。報告を希望する方は、以下の要領で、モントリールのローレンス・モネ先生まで。CALL FOR PAPERS5th International Conference on The History of Medicin…

横溝正史『獄門島』と優生学

横溝正史『獄門島』は、昭和22-23年に雑誌『宝島』に連載された探偵小説で、瀬戸内海の孤島で起きた連続殺人事件を金田一耕介が解決する人気作品である。瀬戸内海の孤島は、日本の優生学と精神医学にとって縁が深い主題である。1940年の国民優生法が制定さ…

大門正克『日本の歴史 15 1930年代から1955年―戦争と戦後を考える』

大門正克『日本の歴史 15 1930年代から1955年―戦争と戦後を考える』(東京:小学館、2009)16冊構成の「日本の歴史」の新しい通史の、戦前から戦後までを論じた書物を読む。よくお名前を目にする大門先生の書下ろしで、人々の「生存」の歴史ということで、医…

「白隠展」と富士山の日

かなり前のことになるけれども、Bunkamura ザ・ミュージアムで「白隠展」を観たときの記事を。今日は2月23日で「富士山の日」でもあることですし。 白隠は1685年に生まれ1768年に没した禅僧で、1000点以上の数多くの画と書の作品を残した。今回はそのうち重…

ヤスパースより地震後の神経症について

この数年は20世紀の精神医療の歴史を研究しているから、そのための体制を自分の中で徐々に作っているが、その一つが、簡単なことだけれども、「ヤスパースとクレペリンの教科書を座右に引きつけてよく目を通す」ことである。どちらも、みすず書房から美しい…

研究会「宗教と精神療法:その歴史的パースペクティブ」

研究会「宗教と精神療法:その歴史的パースペクティブ」Seminar "Religion and Psychotherapies: Its Historical Perspective"場所:求道会館(〒113-0033 東京都文京区本郷6丁目20-5)Kyudo Kaikan (20-5, Hongo 6 chome, Bunkyo-ku)3月6日時間:第1部…

エラリー・クイーン『Yの悲劇』

エラリー・クイーン『Yの悲劇』本格推理の傑作としてタイトルを知ったのが中学生の頃だから、35年ほどタイトルだけ知っていて読まなかった本である。三分の一世紀にわたる無知を激しく恥じる内容だった。推理小説だからネタバレを警戒しますが、以下は内容に…

ハックスリー『素晴らしい新世界』の鞭打ちと大衆の集団オーガズム

ハックスリー『素晴らしき新世界』の末尾に、私をとても不安にさせて、胸から腹のあたりにまるで生き物がいるかのような不快感を覚える部分がある。痛みと鞭打ちの個人性と集団性について、嘔吐感を催させる、まさしくポルノグラフィックな部分だと思う。ハ…

クレッチマーの戦争神経症論の日本への影響

クレッチュマー『ヒステリーの心理』手元にあるのは、クレッチマーが1948年に Hysterie, Reflex und Instinkt というタイトルで出版したものを、東大の吉益脩夫が1953年に『ヒステリーの心理』として訳したもの。本当に観なければならないのは、同じ吉益が19…