Research Memos

探偵小説が似合う街

小酒井不木「科学的研究と探偵小説」『新青年』3巻3号(1922)探偵小説と医学研究の間の深い関連は、英語圏では医学の文化史の確立された主題のひとつとなって、多くの研究書がすでに世に問われている(読まなくては!)日本語でも、英文学者が作品論ベース…

「精神医学の科学哲学―精神疾患概念の再検討―」第2回研究会

以下の研究会が開催されますのでお知らせいたします。「精神医学の科学哲学―精神疾患概念の再検討―」第2回研究会2013年2月23日(土)13時30分開始、終了時刻未定(17時頃終了見込み)東京大学駒場Ⅰキャンパス18号館1階ホール発表者信原幸弘(東京大学)「妄…

日本精神医学の戦争経験と戦後のノイローゼ論

加藤正明『ノイローゼ』重要な一文を見つけたのでメモ。もともと昭和30年に「創元医学新書」の一冊として出版された書物だが、これは昭和56年の大きな改訂の時に書かれた言葉で、それまでの版には出てこない。「この本の初版が出た昭和30年からすでに26年を…

戦後アメリカの精神医学文化への戦時神経症研究の貢献

Staub, Michael, Madness Is Civilization: When the Diagnosis was Social, 1948-1980 (Chicago: University of Chicago Press, 2011).アメリカでは戦時神経症の研究がどのように戦後の精神医学に発展的に連結させられたかを論じた書物の章をチェックする。…

戦時神経症メモ

欧米の戦争神経症の議論と、日本のそれを大きく隔てる違いの一つは、それが公衆による議論の対象であったか否かという違いである。第一次世界大戦期のヨーロッパの交戦国において、1914年の7月に戦争がはじまって数か月のうちに、戦争神経症は公衆が注目する…

ドイツの戦時神経症の治療

ドイツの第一次世界大戦期の戦争神経症研究についてメモ(Ben Shepard) ドイツにおいては、大学の精神科の教授レベルの優れた医師たちを総動員した戦争神経症の研究と治療のプログラムがすぐに始まった。その中で、1890年代に外傷性神経症について論争され…

Peter Campbell

London Review of Books という隔週の書評誌があって、イギリスの大学の学科のコモンルームにはTLSやTHESなどと並んで一緒に必ず置いてある。書評紙といっても、書評の形を取った評論と云うのが正確で、学術誌の書評とはだいぶ違う。まず長さがだいぶ長く、…

『アルバート氏の人生』

http://albert-movie.com/映画『アルバート氏の人生』を観る。19世紀のダブリンを舞台にして、女性でありながら15歳の時に男性に集団レイプされて以来、男性としてホテルのウェイターを続けてきたアルバート・ノッブスが中年になって人生の転機を迎え、さま…

精神疾患の全成員調査―1940年・鎌倉郡

平塚俊亮・野村章恒「神奈川県某地に於ける全成員調査」『民族衛生』9巻5号、1941:436-453.神奈川県の某村というのは、鎌倉郡の村岡村である。人口は1700人ほど。この村の精神病の全数調査に基づく論文である。精神病調査についてもっと早く読んでおくべき資…

坂口安吾「白痴」と、精神障害を露出した生活

坂口安吾「白痴」坂口安吾「白痴」を読んでおく。戦争末期の東京・蒲田のあたりに住む新聞記者の生活を通じて、空襲で最終的に破壊された生活の空虚さを描いた作品である。そこに描かれている精神障害者の生活ぶりが大変面白く、戦前の東京における精神障害…

ドイツの貧民向け医学的学知の位置づけ

Hammond, Mitchell Lewis, “Medical Examination and Poor Relief in Early Modern Germany”, Soc Hist Med (2011) 24(2): 244-259.ドイツの小都市ネルドリンゲンの資料を用いて、医師が比較的貧しいものを診断・治療するときのありさまを分析した論文。短い…

科学史講演会 ヒロ・ヒライ先生

「科学史講演会」は、2012年から東大駒場の科学史・科学哲学科で開催されている、国際的に優れた研究者による講演のシリーズです。東大の橋本毅彦先生、ケンブリッジのクスカワ・サチコ先生などがすでに壇上に立っています。 2月8日には、オランダのヒロ・ヒ…

バイオマーカーと初期診断の権力について

Singh, Illina and Nikolas Rose, “Biomarkers in Psychiatry”, Nature, vol.460, 9 July 2009.現在来日中のニコラス・ローズと同僚が執筆した、精神医学におけるバイオマーカーの利用について。ローズは現代の生命倫理と医療の社会科学の大家の一人であるし…

音楽と催眠―1800年からの歴史

Kennaway, James, “Musical Hypnosis: Sound and Selfhood from Mesmerism to Brainwashing”, Soc Hist Med (2012) 25(2): 271-289.音楽と催眠というと、音楽療法に関心がある心理療法か何かの専門家がテクニカルな問題について素朴な論文を書くことを予想し…

17世紀スペイン演劇からの医学史

Slater, John and Mar?a Luz L?pez Terrada, “Scenes of Mediation: Staging Medicine in the Spanish Interludes”, Soc Hist Med (2011) 24(2): 226-243.近世スペインにおいて、短い演劇作品の「インタールード」における医者たちの分析。「インタールード…

闘病記研究会 2/23

闘病記研究会『社会学から闘病記へのアプローチ』 今回は、闘病記がいつ誕生して、どう認知されてきたか闘病記の近現代史をたどります。社会背景と患者の心理は闘病記にどう反映されてきたのでしょうか。そして、時代が進むにつれ、患者のための本であった闘…

オーストラリアの戦争神経症患者の処遇と家族の圧力

Larsson, Marina, “Families and Institutions for Shell-Shocked Soldiers in Australia after the First World War”, Social History of Medicine, 22, no.1, 2009: 97-114.第一次世界大戦後のオーストラリアの戦争神経症(シェルショック)の患者の処遇に…

西洋解剖学の中国への導入

Asen, Daniel, “’Manchu Anatomy’: Anatomical Knowledge and the Jesuits in Seventeenth- and Eighteenth-Century China”, Social History of Medicine, 22, no.1, 2009: 23-44.17世紀末から18世紀にかけて、当時は清朝であった中国に、西洋の解剖学がもた…

戦争神経症―小倉陸軍病院からの道

中村強「戦争神経症の統計的観察」『医学研究』vol.25, no.10, 1955: 1801-1813.これまで国府台の陸軍病院とその後継組織の医者による業績を読んできたが、別の病院で仕事をした医者が戦後に書いた論文を読んでみた。精神疾患の患者が運び込まれた病院は国府…

研究会:「帝国日本の知識ネットワークに関する科学史研究」

大阪で「帝国日本の知識ネットワークに関する科学史研究」の報告会が開かれます。ご参集ください!科学研究費・基盤A「帝国日本の知識ネットワークに関する科学史研究」(研究課題番号:24240108)・医学薬学班研究会日時;3月2日(土) 15:00~17:30会場:…

加藤正明・ノイローゼ論(1955)の中の戦争神経症

加藤正明『ノイローゼ―神経症とはなにか』(東京:創元社、1955)今回の論文のコアは、日本軍で第二次大戦中に発生した戦時神経症について、議論を二つのクラスターにシンプルに分けて、戦前から戦中にかけて観察されたことと、戦後の新しい価値観において観…

18世紀イングランドの「薬種商」の上昇

Corfield, Penelope J., “From Poison Peddlers to Civic Worthies: The Reputation of the Apothecaries in Georgian England”, Social History of Medicine, 22, no.1, 2009: 1-21.傑作の論文で、フルテキストがオープンアクセスになっているから、大学院…

戦時神経症の治療と電気ショック

対応に苦慮した戦時神経症の患者に対して櫻井が持っていた最終兵器とよべるものは、けいれん療法、それも電気けいれん療法であった。1930年代から、精神疾患を治療する方法として、インシュリンやカージアゾルを処方して痙攣をおこす方法が脚光を浴びていた…

『茂吉の体臭』からメモ

斎藤茂太『茂吉の体臭』は、細部において味わい深いことが沢山書いてあるが、その中で、斎藤家が斎藤茂吉の症例誌をつけていたこと、その症例誌の記述が、私が読んでいる王子脳病院の記述と文体がよく似ていることをメモする。もともとは呉秀三の巣鴨―松沢病…

医師/政治家というキャリアについて

Digby, Anne, “Medicine, Race and the General Good: The Career of Thomas N G Te water (1857-1926), South African Doctor and Medical Politician”, Medical History, vol.51, No.1 (2007): 37-58.医師であり政治家であった人物の分析は、医学史上の一…

軍陣医学博物館

『彰古館―知られざる軍陣医学の軌跡』(東京:防衛ホーム新聞社、2009)東京世田谷の陸上自衛隊三宿駐屯地に陸上自衛隊衛生学校があり、その校内に「彰古館」が開設されている。明治初年から現在にいたる、陸軍の軍陣医学関係の資料が収集され、展示されてい…

日本の児童福祉の状況について

Kathryn Goldfarb, “Developing a Modern Body Politic: Japanese Child Welfare, Advocacy, and the Politics of the Normal”1月15日に駒場で開催された講演会で、日本の現代の児童福祉をめぐる状況についてのフィールドワークに基づいた報告を聴いた。日本…

戦時神経症の治療と精神科病棟という「脅迫」

国府台陸軍病院の精神科に応召された櫻井は、戦時神経症、年金神経症の治療において有効と判定されている方法が、当時の陸軍では利用できないことを知る。一時賜金によって患者と責任関係者の間を断絶させる方法は、国民と国家の間に適用することができない…

ザミャーチン『われら』

エヴゲーニィ・ザミャーチン『われら』川端香男里訳(東京:岩波書店、1992)必要があって、1920年代にソ連で書かれた体制批判的なSFを読む。もともとは、Cultural History of the Body に収録された論文から読まなければならないと思っていた書物。1920年代…

斎藤茂太『茂吉の体臭』

斎藤茂太『茂吉の体臭』(東京:岩波書店、2000)読みたいと思って読んでこなかった著作である。歌人として著名な斎藤茂吉は、青山脳病院の院長を務めていた精神科医であり、日本の精神病院の院長の中では最も著名な人物であろう。昭和戦前期から茂吉が没す…