Entries from 2008-04-01 to 1 month

日本人はなぜ滅亡しなかったか

今日は与太話を書く。あ、私の話は与太話だけれども、読んだ文献は、その筋の権威が書いた、コアの部分は(ほぼ間違いなく)すごくしっかりした論文です。文献は、Black, Francis L., “An Explanation of High Death Rates among New World Peoples When in …

戦国時代のマラリア

奈良時代以降のマラリアの情報が本格的に必要になって、服部敏良『室町・安土桃山時代医学史の研究』(京都:思文閣、1971)を読む。同業者はよく知っていると思うけど、服部は、奈良時代から江戸時代までの医学史に関して、それぞれの時代ごとに一冊ずつ、…

津軽の疫病史

必要があって江戸時代以降の津軽の疫病の歴史を克明に調べた論文を読む。文献は松木明・松木明知『津軽の医史』『続津軽の医史』(弘前:津軽書房、1971, 1975)「地方史」「郷土史」のジャンルで発表されているので必ずしも広くは注目されてはいないが、日…

民主的バイオテクノロジー

必要があって、遺伝子操作などで人体の機能や形態をラジカルに操作することを肯定する transhumanist(ヒト超越論者、とでも訳すのだろうか?)のマニフェスト的な論文を読む。文献は、Hughes, James, “Democratic Transhumanism 2.0” 注などはついていない…

『ガタカ』

必要があって映画『ガタカ』(Gattaca) を観る。アンドリュー・ニコル監督、イーサン・ホーク、ユマ・サーマン、ジュード・ロウらが出演。1997年に公開されて、映画ファンだけでなく、生命倫理学者たちの中で古典といってもよい地位を築いている傑作。このジ…

旱魃とマラリア

未読山の中から、南アフリカのスワジランドのマラリアについての論文を読む。文献は、Packard, Randall, “Maize, Cattle and Mosquitoes: the Political Economy of Malaria Epidemics in Colonial Swaziland”, Journal of African History, 25(1984), 189-2…

黄熱病研究の背景

アメリカ陸軍のウオルター・リードによる1900年の有名な黄熱病研究を社会経済的な背景の中に位置づけた古典的な論文を読む。文献は、Stepan, Nancy, “The Interplay between Socio-Economic Factors and Medical Science: Yellow Fever Research, Cuba and t…

レオナルド解剖図譜

レオナルドの解剖スケッチ集を読む。文献は松井喜三編集・解説『レオナルド・ダ・ヴィンチ解剖図集』(東京:みすず書房、2001)レオナルドの解剖スケッチを選んで、口絵レヴェルの高画質で複製したものに、それぞれに、解剖学の専門的な見地からされている…

マーティン・ケンプ『レオナルド・ダ・ヴィンチ』

必要があって、レオナルドについての入門書を読む。マーティン・ケンプ『レオナルド・ダ・ヴィンチ』藤原えりみ訳(東京:大月書店、2006)私はレオナルドの研究者ではないから、確かな判断かどうか自信はないけれども、私が読んだレオナルド論の中でいうと…

「出生転換」概念の誕生と変容

必要があって、人口転換・出生転換 (demographic transition, fertility transition) の人口学上の概念がはじめて形成されたときの思想史を読む。文献は、Szreter, Simon, “The Idea of Demographic Transition and the Study of Fertility Change: a Critic…

『ハンニバル・ライジング』

出張の間の雑駁な読書の記事の最後。『ハンニバル』シリーズの(目下のところ)最新の作品で、ハンニバルの少年時代、そして医学生時代を描いた『ハンニバル・ライジング』を読む。高見浩訳の新潮文庫で上下二巻本。リトアニアの貴族レクター家の長男で天才…

イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』

前日に続いて、イタロ・カルヴィーノの作品をもう一冊。米川良夫訳の『見えない都市』(河出文庫)これは『柔かい月』よりもはるかに分かりやすい仕方で傑作。翻訳はすごく良いけれども、原語に近い言葉でもう一度読みたくて、英訳を注文した。マルコ=ポー…

イタロ・カルヴィーノ『柔かい月』

博識の学生にしばらく前に教えてもらったイタロ・カルヴィーノという作家を、出張の移動時間に読む。文献は、脇功訳の『柔かい月』(河出文庫)。イタロ・カルヴィーノはイタリアの作家で、1923年に生まれて1985年に急逝している。人間と世界についての科学…

物価・気候と死亡率の変動

必要があって、18世紀ロンドンの死亡率と物価・気候の関係を分析した論文を読む。文献は、Landers, John, “Mortality, Weather and Prices in London 1675-1825: Study of Short-term Fluctuations”, Journal of Historical Geography, 12(1986), 347-364.ヨ…

近代医学と人間の断片化

必要があって、「近代医学は人間を断片化させている」という、昨今の医療批判の前提になっている命題を批判的に考察した論文を読む。文献は、David Cantor, “The Diseased Body” in Roger Cooter and John Pickstone eds., Companion to Medicine in the Twe…

『二笑亭奇譚』

昭和戦前期に精神病者であると鑑定され、東京の深川に「二笑亭」なる奇怪な家を建てた人物と、その建築の研究書を読む。文献は、式場隆三郎が昭和12年に中央公論に発表した「二笑亭奇譚」をはじめ、重要な関連文献が集められたちくま文庫版。いまは入手しに…

『嵯峨野明月記』

出張先の空港のロビーで辻邦生『嵯峨野明月記』を読む。中公文庫版。恥ずかしながら、私はこの作品を読むまで知らなかったのだけれども、日本の書物の歴史において、「嵯峨本」と称されている、17世紀の初頭に刊行された一連の豪華美麗本があるという。本阿…

『来粒的冒険』(笑)

最近無駄話が多いけど、今日も無駄話を。出張の飛行機の中で、しばらく前に原作を読んで記事にした『ライラの冒険』の中国語字幕版を上演していたので、つい観てしまう。原作も読んでいたし英語の音声もあったので、中国語の字幕を見ながら映画を観ていると…

古病理学

古病理学 (paleopathology) の大作に目を通す。文献はRoberts, Charlotte and Margaret Cox, Health and Disease in Britain: from Prehistory to the Present Day (Stroud: Sutton Publishing, 2003).イギリスの旧石器時代から現代まで、化石人骨の分析でわ…

ウェブサイト「感染の歴史」

新着の学会のニューズレターを見ていたら、「感染の歴史」のウェッブサイトがハーヴァードの図書館の中に作られている。初期近代から20世紀にかけて、書物や論文やパンフレット、マニュスクリプトなど合計で50万ページのテキストなどがアップされていて、自…

島嶼の疫学

島嶼における感染症の伝播を論じた書物を読み直す。文献は、Cliff, Andrew, Peter Haggett and Matthew Smallman-Raynor, Island Epidemics (Oxford: Oxford University Press, 2000) 感染症の「伝播」の疾病地理学ならば他の追随を許さないハゲットたちは多…

『マッチポイント』(サウンドトラック)

今日は無駄話。ウッディ・アレン監督でスカーレット・ヨハンソンが出演している映画『マッチポイント』のサントラのCDがとてもいいという話です。いや、ヨハンソンが良いとかそういうことではなくて(汗)、サウンドトラックの話です。映画のサントラとあな…

南西イングランドのマラリア・・・と鉄道模型

サリー、ケント、エセックスのあたりの南西イングランドにおける死亡率の地域差を論じた名著を読む。文献は、Dobson, Mary, Contours of Death and Disease in Early Modern England (Cambridge: Cambridge University Press, 1997). 第六章を中心に読んだ。…

ディーテイルズ No.13

絵画の一部をみて、その全体を答えるベタなクイズ。 この暗黒にただようクラゲのようなものは、誰が描いた何という作品に出てくるでしょう? 作者と作品名を答えてください。 お答えは「内緒」でお願いします。 これまでの12回の中で「正解者なし」が1回あり…

「肺炎-下痢性の諸疾患」

「肺炎-下痢性の諸疾病」の歴史疫学についての論文をチェックする。文献は、Kunitz, Stephen J., “Speculations on the European Mortality Decline”, Economic History Review, 36(1983), 349-364. 私が知る限りではもっとも視野が広い歴史疫学の論文で、…

飛騨の過去帳

有名な飛騨の「O寺院」の過去帳を使った英語論文をチェックする。文献は、Jannetta, Ann Bowman and Samuel Preston, “Two Centuries of Mortality Change in Central Japan: the Evidence from a Temple Death Register”, Population Studies, 45(1991), 41…

「世界を変えた十二の病気」

『世界を変えた十二の病気』というタイトルの一般書を読む。文献は、Sherman, Irwin W., Twelve Diseases That Changed Our World (Washington D.C.: ASM Press, 2007).引退したアメリカの生物学者が12の病気を選んで、逸話風の歴史を語った書物。一般向けの…

インシュリンショック療法の死亡例

文献を読んでいて、昭和10年代のインシュリンショック療法の最中における事故を報告した学会報告があった。文献は、服部六郎「インシュリンショック療法中の遷延性昏睡について」『精神神経誌』43(1939), 448. 報告者は京城大学の神経科とあるが、詳細は分か…

優生学と障害学

必要があって「障害学」の歴史社会学の本を読む。文献はSnyder, Sharon L. and David T. Mitchell, Cultural Locations of Disability (Chicago: University of Chicago, 2006).障害学について基本的なことを勉強しなければならなくなって、手近にあった新し…