Entries from 2013-01-01 to 1 month

闘病記研究会 2/23

闘病記研究会『社会学から闘病記へのアプローチ』 今回は、闘病記がいつ誕生して、どう認知されてきたか闘病記の近現代史をたどります。社会背景と患者の心理は闘病記にどう反映されてきたのでしょうか。そして、時代が進むにつれ、患者のための本であった闘…

オーストラリアの戦争神経症患者の処遇と家族の圧力

Larsson, Marina, “Families and Institutions for Shell-Shocked Soldiers in Australia after the First World War”, Social History of Medicine, 22, no.1, 2009: 97-114.第一次世界大戦後のオーストラリアの戦争神経症(シェルショック)の患者の処遇に…

西洋解剖学の中国への導入

Asen, Daniel, “’Manchu Anatomy’: Anatomical Knowledge and the Jesuits in Seventeenth- and Eighteenth-Century China”, Social History of Medicine, 22, no.1, 2009: 23-44.17世紀末から18世紀にかけて、当時は清朝であった中国に、西洋の解剖学がもた…

戦争神経症―小倉陸軍病院からの道

中村強「戦争神経症の統計的観察」『医学研究』vol.25, no.10, 1955: 1801-1813.これまで国府台の陸軍病院とその後継組織の医者による業績を読んできたが、別の病院で仕事をした医者が戦後に書いた論文を読んでみた。精神疾患の患者が運び込まれた病院は国府…

研究会:「帝国日本の知識ネットワークに関する科学史研究」

大阪で「帝国日本の知識ネットワークに関する科学史研究」の報告会が開かれます。ご参集ください!科学研究費・基盤A「帝国日本の知識ネットワークに関する科学史研究」(研究課題番号:24240108)・医学薬学班研究会日時;3月2日(土) 15:00~17:30会場:…

加藤正明・ノイローゼ論(1955)の中の戦争神経症

加藤正明『ノイローゼ―神経症とはなにか』(東京:創元社、1955)今回の論文のコアは、日本軍で第二次大戦中に発生した戦時神経症について、議論を二つのクラスターにシンプルに分けて、戦前から戦中にかけて観察されたことと、戦後の新しい価値観において観…

18世紀イングランドの「薬種商」の上昇

Corfield, Penelope J., “From Poison Peddlers to Civic Worthies: The Reputation of the Apothecaries in Georgian England”, Social History of Medicine, 22, no.1, 2009: 1-21.傑作の論文で、フルテキストがオープンアクセスになっているから、大学院…

戦時神経症の治療と電気ショック

対応に苦慮した戦時神経症の患者に対して櫻井が持っていた最終兵器とよべるものは、けいれん療法、それも電気けいれん療法であった。1930年代から、精神疾患を治療する方法として、インシュリンやカージアゾルを処方して痙攣をおこす方法が脚光を浴びていた…

『茂吉の体臭』からメモ

斎藤茂太『茂吉の体臭』は、細部において味わい深いことが沢山書いてあるが、その中で、斎藤家が斎藤茂吉の症例誌をつけていたこと、その症例誌の記述が、私が読んでいる王子脳病院の記述と文体がよく似ていることをメモする。もともとは呉秀三の巣鴨―松沢病…

医師/政治家というキャリアについて

Digby, Anne, “Medicine, Race and the General Good: The Career of Thomas N G Te water (1857-1926), South African Doctor and Medical Politician”, Medical History, vol.51, No.1 (2007): 37-58.医師であり政治家であった人物の分析は、医学史上の一…

軍陣医学博物館

『彰古館―知られざる軍陣医学の軌跡』(東京:防衛ホーム新聞社、2009)東京世田谷の陸上自衛隊三宿駐屯地に陸上自衛隊衛生学校があり、その校内に「彰古館」が開設されている。明治初年から現在にいたる、陸軍の軍陣医学関係の資料が収集され、展示されてい…

日本の児童福祉の状況について

Kathryn Goldfarb, “Developing a Modern Body Politic: Japanese Child Welfare, Advocacy, and the Politics of the Normal”1月15日に駒場で開催された講演会で、日本の現代の児童福祉をめぐる状況についてのフィールドワークに基づいた報告を聴いた。日本…

戦時神経症の治療と精神科病棟という「脅迫」

国府台陸軍病院の精神科に応召された櫻井は、戦時神経症、年金神経症の治療において有効と判定されている方法が、当時の陸軍では利用できないことを知る。一時賜金によって患者と責任関係者の間を断絶させる方法は、国民と国家の間に適用することができない…

ザミャーチン『われら』

エヴゲーニィ・ザミャーチン『われら』川端香男里訳(東京:岩波書店、1992)必要があって、1920年代にソ連で書かれた体制批判的なSFを読む。もともとは、Cultural History of the Body に収録された論文から読まなければならないと思っていた書物。1920年代…

斎藤茂太『茂吉の体臭』

斎藤茂太『茂吉の体臭』(東京:岩波書店、2000)読みたいと思って読んでこなかった著作である。歌人として著名な斎藤茂吉は、青山脳病院の院長を務めていた精神科医であり、日本の精神病院の院長の中では最も著名な人物であろう。昭和戦前期から茂吉が没す…

戦時神経症の治療と近代国家の本質(1)

戦時神経症の治療と国民国家の壁(1)櫻井図南男は戦時神経症について『軍医団雑誌』に連載した論文の中で、治療について非常に興味深いことを述べている。神経症の治療は通常の疾病の治療と違い、個々の症例に適合した治療手段があるというより、総合的な…

中野美代子『三蔵法師』

中野美代子『三蔵法師』(東京:中央公論社、1999)純粋に楽しみのための読書で、中野美代子『三蔵法師』を読む。西遊記の三蔵法師で有名な玄奘(602-664)のインド取経の旅を中心にした伝記である。玄奘になぜ興味を持ったかというと、しばらく前から般若心経…

「コレラ雲」という現象の分析

Mukharji, Projit Bihari, “The ‘Cholera Cloud’ in the Nineteenth Century ‘British World’: History of an Object-Without-an-Essence”, Bulletin of the History of Medicine, 86(2012), number 3, 303-332.BHMの新着号から非常に面白い論文。「コレラ雲…

『家畜人ヤプー』

『家畜人ヤプー』必要があって『家畜人ヤプー』を読む。1956-59年に雑誌『奇譚クラブ』に20回にわたって連載されたオリジナルは、恥ずかしいことに読んだことがなく、手元にあるのはいずれも単行本で、オリジナルに一章を足した1970年の都市出版社版、それ…

精神病ケアとレジリエンス・リカバリー・社会正義

Howell, Alison and Jujian Voronka, “Introduction: The Politics of Resilience and Recovery in Mental Health Care”, Studies in Social Justice, vol.6, no.1 (2012): 1-7.20世紀の中葉から後半にかけて、欧米各国で脱精神病院化が起きた。精神病床の数…

ピンク・フロイド Brain Damage の分析

Winthrop-Young, Geoffrey, “Implosion and Intoxication: Kittler, a German Classic, and Pink Floyd”, Theory, Culture & Society, 2006, 23: 75-91.昭和戦前期の精神病患者の症例誌を読むと、ラジオや電波などの妄想を語る患者や、それらの技術への不安…

井上俊宏『近代日本の精神医学と法』

井上俊宏『近代日本の精神医学と法』(東京:ぎょうせい、2010)精神科医が東大駒場の哲学の大学院で書いた修士論文を書籍化したものである。修士論文であるから決して新しい史実を発見したり新しい議論を組み立てたリサーチをしているわけではないが、出色…

今東光「弓削道鏡」

今東光「弓削道鏡」『今東光代表作選集 第四巻』(東京:読売新聞社、1973)今東光の短編「稚児」は、延暦寺が蔵する古文書で稚児との性愛の技法が書かれたものを読んで書かれたもので、『今東光代表作選集 第五巻』で読むことができる。その横にあった『今…

『カーマ・スートラ』とモダニズム文化

McConnachie, James, The Book of Love: The Story of the Kamasutra (London: Atlantic Books, 2007).カーマ・スートラとその英訳についての一般書である。買うべきではなかったけれども、読んだのは正解である。もともとは3世紀のインドの都市の洗練富裕層…

米軍兵士の神経症とスクリーニングの妥当性

Needles, William, “The Successful neurotic Soldier”, The Bulletin of the U.S. Army Medical Department, vol.4, no.6(1945), 673-682.米軍のヨーロッパ戦線を中心に活躍してきた軍医が記した精神医学的な理由によるスクリーニングについての論考。この…

明治期日本医学の洋医師たちのコネクション

Nakamura, Ellen, “The Private Medical World of a Meiji-Era Japanese Doctor: Ishii Kend?’s Diary of 1874”, Social History of Medicine, 2012.新進気鋭の日本医学史の研究者であるエレン・ナカムラによる転換期の日本医学の研究。主人公と素材は、幕末…

講演会:日本の児童福祉の人類学

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。シカゴ大学で博士号を取得され、現在ハーバードで講師をしていらっしゃるキャサリン・ゴールドファーブ先生に、ご講演いただけることになりました。ゴールドファーブ先生は日本の児童福…

陸軍病院で戦争神経症をみるのが楽しかった精神医

櫻井図南男『人生遍路』(福岡:葦書房、1983)九州大学精神科の著名な医学教授の自伝である。一番重要なポイントは、昭和13年から16年にかけての国府台陸軍病院への応召を楽しいものと受け止めていることである。国府台に昭和13年春から応召、戦争神経症の…

『素晴らしき新世界』

Kass, Leon, “Preventing a Brave New World”, The New Republic, 21 June 2001.ヒトのクローンに反対する生命倫理の古典的な論説であるが、それにオルダス・ハクスリー『素晴らしき新世界』についての捉え方が書いてあったのでメモ。このテキストはウェブ上…

南方熊楠『十二支考』

南方熊楠『十二支考』大晦日から元日にかけて、南方熊楠『十二支考』の蛇の章を読んだ。この数年、この博物誌家が魔法のような該博な知識でその年の干支を論じた文章を読むのが年末年始の恒例の行事になっている。十二支の中でも蛇という生き物は、民俗学か…