Entries from 2015-01-01 to 1 year

江戸時代の「幾那」(キナ)について

数日前に江戸時代に「キナ」が輸入されていたのかどうか分からないというようなことを書いたが、ふと、『薬物名出典総索引』を使えばいいのではないかと思いついた。これは、内藤記念くすり博物館の開館30周年を記念して出版されたもので、青木允夫・野尻佳…

江戸時代の人々の何割が梅毒に罹っていたか?

鈴木隆雄『骨から見た日本人―古病理学が語る歴史』(1998; 東京:講談社、2010) 古病理学 paleopathologyは、考古学の一分野で、過去の人々の骨などを調査分析して、彼らが罹っていた疾病などを確定する学問である。通常の歴史文書が残っていない時代や地域…

アマゾンのゴム採集とマラリア

Stepan, Nancy Leys, “’The Only Serious Terror in These Regions’: Malaria Control in the Brailian Amazon”, in Armus, D. (2003). Disease in the history of modern Latin America : from malaria to AIDS. Durham, NC, Duke University Press, 25-50.…

南米スペイン植民地におけるマラリア薬抽出プロジェクト

Crawford, M. J. (2014). "An Empire’s Extract: Chemical Manipulations of Cinchona Bark in the Eighteenth-Century Spanish Atlantic World." Osiris 29(1): 215-229 マラリアの治療薬と化学の関係についての面白い論文。1790年にスペイン王が南米に植物…

『男女淫欲論』(明治12年)と閉じた系のエコノミーとしての男性の性に関連する疾病

扶徳氏撰『男女淫欲論』片山平三郎訳(東京:うさぎや誠、1877-1879) 明治初期にアメリカの書物から翻訳された性医学書。著者の「扶徳」というのはアメリカの医師・医学著者の Edward Bliss Foote で、この書物は、Foote による Plain Home Talk というタイ…

イミュノ・ヒストリーのメモ02 大正期徳島の赤痢・子供の排便・ハエ取り紙

村島鐵男『赤痢予防ニ関スル件報告』(東京:内務省衛生局、1926) 大正期に入って徳島県で多数の赤痢患者が現れ、患者数でいうと多い年の1915年、1923年、1924年には県内合計で1,000人を超える患者が現れ、死者数も毎年100人を超え、1923年には438人の死者…

イミュノ・ヒストリーのメモ01 二つの文明の接触についてヨーロッパの側が作る「神話」

Obeyekere, Gananath, The Apotheosis of Captain Cook: European Mythmaking in the Pacific (Princeton, New Jersy: Princeton University Press, 1992). イミュノ・ヒストリーについて考えをまとめながら本を探しては読んでいる。8月末にイミュノ・ヒスト…

初期オペラの精神疾患の表現 - 医療・社会・文化 2015年度第三回研究会

医療・文化・社会研究会の第三回研究会のお知らせです 2015年度 第3回研究会【日時】7月27日 (月)18:00~【場所】 慶應大学三田キャンパス 東館6階G-Sec Lab【タイトル】初期オペラにおける精神疾患の表現【発表者】松本直美(ロンドン大学ゴールドスミス…

カルテ・症例誌を読むときの見取り図を与えてくれる論文

Hess, V. and J. A. Mendelsohn (2010). "Case and Series. Medical Knowledge and Paper Technology, 1600–1900." History of Science 48(3-4): 287-314. 患者の症例誌が話題になっている。最近では、佐賀医学史研究会が発表・報道した広島・長崎の被爆者75…

「コロンブスの交換」と新大陸原住民の感染症による殲滅

Cook, N. D. (1998). Born to die : disease and New World conquest, 1492-1650. Cambridge, Cambridge University Press. 医学史の主題を授業に取り込もうと思っている方に、いわゆる「コロンブスの交換」の授業をするときに便利な文献の紹介。 ヨーロッパ…

エボラの宿主について―ナショジオの記事

2014年の末に西アフリカでのエボラ出血熱の流行は、約2万7千人に感染、1万1千人以上が死亡するこれまで最大の規模の流行になった。エボラが持つ大きな特徴は、これまでのところ、めったに流行しない疾病であるということである。1976年の最初の発見された流…

『医学生とその時代―東京大学医学部卒業アルバムにみる日本近代医学の歩み』

『医学生とその時代―東京大学医学部卒業アルバムにみる日本近代医学の歩み』(東京:中央公論新社、2008) 東大の歩みを物語る写真集である。東京大学医学部・医学部付属病院創立150周年記念とあるから、1858年にお玉ヶ池種痘所の設立から数えて150年という…

医学と音楽の歴史―オペラと精神疾患についての講演

今年の夏の医学史の講演と、それに関連するイベントのご案内です。 ロンドン大学・ゴールドスミス・コレッジで音楽を教えておられる松本直美先生が、今年の夏に来日され、慶應三田で医学と音楽の歴史についてのご講演をされます。詳細は以下の通りです。 7月…

ニューロ・ヒストリーと「イミュノ・ヒストリー」

若い研究者たちと意見を交換しているときのアイデアをメモ。 先日記事にしたが、今週末に一橋大学でイギリスの精神医療の歴史を研究している高林陽展先生が「ニューロ・ヒストリー」について報告することになっている。高林先生の実力と「ニューロ・ヒストリ…

「ニューロ・ヒストリー」の講演と報告

高林陽展先生が、「ニューロ・ヒストリー」についてのご報告を行います。6月21日14時より一橋大学にて。第235回「歴史と人間」研究会のお知らせ 日時: 2015年6月21日(日)14時より 場所: 一橋大学西キャンパス本館特別応接室 (キャンパス地図9番 http://…

医療・文化・社会研究会 川崎明子『ブロンテ小説における病いと看護』合評会

直前になりましたが、明日6月8日は、川崎明子先生のご著作『ブロンテ小説における病いと看護』(2015)の合評会を開催します。予定と、私のコメントの冒頭部分をアップロードいたしました。皆さまのおいでをお待ちしています。 2015年度 第二回研究会【日時】 …

診断名と病訴の問題

Bentall, R. (2006). "Madness explained: why we must reject the Kraepelinian paradigm and replace it with a 'complaint-orientated' approach to understanding mental illness." Med Hypotheses 66(2): 220-233. 精神疾患の患者に対する理解の仕方に…

文学と医学より論文二点

Kennedy, M. (2014). ""Let me die in your house": cardiac distress and sympathy in nineteenth-century British medicine." Lit Med 32(1): 105-132. Kennedy, M. (2012). "Modernist autobiography, hysterical narrative, and the unnavigable river: …

救貧法と精神医療

Ellis, R. (2006). "The asylum, the Poor Law, and a reassessment of the four-shilling grant: admissions to the county asylums of Yorkshire in the nineteenth century." Soc Hist Med 19(1): 55-71.19世紀イングランドの精神病院は、1980年代から90…

19世紀の生理学と「扇情小説」について

Kennedy, Meagan, “Some Body’s Story: The Novel as Instrument”, Novel: A forum on Fiction, 42:3 (2009), 451-459. イギリスで1860年代から流行した「センセーション小説」と同時代の医学、特に実験室で現れた生理学との関係についての的確な分析を読ん…

マラリアの歴史

ソニア・シャー『人類50万年の闘い マラリア全史』夏野徹也訳(東京:太田出版、2015) マラリアの歴史と現在についての書物を『週刊読書人』に書評した。個人的な話になるが、マラリアについての本を公の場で書評するのは初めてで、何か意味あることが書け…

「自家中毒」理論と19-20世紀の精神疾患の病因論・治療論

精神疾患の原因としての「自家中毒」の理論 Noll, Richard, “Historical Review: Autointoxication and Focal Infection Theories of Dementia Praecox”, World Journal of Biological Psychiatry, (2004), 5, 66-72. クレペリンを軸にして、19世紀末から20…

「未来の医療はどうなるだろうか?」

Amazon.co.jp: サイエンス・ブック・トラベル: 世界を見晴らす100冊: 山本 貴光: 本amzn.to 山本貴光編『サイエンス・ブック・トラベルー世界を見晴らす100冊』(河出書房新社、2015)に、「未来の医療はどうなるだろうか?」という小文を書きました。基…

オペラ『椿姫』 新国立劇場

新国立劇場でオペラ『椿姫』を観る。新制作ということで、舞台と衣装と演出が非常に凝った斬新な企画になっていて、驚いたり感心したり心配したり首をひねったりしたが、なによりも大切な要素である歌が格段に素晴らしく、魔力の域に達していたと思う。ソプ…

福澤諭吉の漢詩「医師に贈る」

『福澤研究センター通信』22号(2015年3月31日)に、福澤が門下生に贈った漢詩があり、それが医師に贈るという内容だったのでメモ。 門下生は奥山春枝という人物である。明治26年に卒業し、職業は銀行の資産運用業として近代日本の経済界で活躍したとのこと。…

ひらりねこ救出事件(笑)

昨日おきた「ひらりねこ救出事件」について。医学史とはまったく無関係な無駄話ですので、どうぞ読み捨ててくださいませ。 家ではネコ一匹と暮らしている。名前は「ヒラリー」といい、2008年の6月ごろにまだ若いネコが一匹庭にやってきて、お腹が空いたから…

中世の幻覚と黙示録的な疫病

Landes, Richard, “Between Aristocracy and Heresy: Popular Participation in the Limousin Peace of God”, in Thomas Head and Richard Landes eds., The Peace of God: Social Violence and Religious Response in France around the Year 1000 (Ithaca:…

中世ヨーロッパのハンセン病・再考

Timothy S. Miller and John W. Nesbitt, Walking Corpses: Leprosy in Byzantium and the Medieval West (Ithaca: Cornell University Press, 2014). 中世ヨーロッパのハンセン病の歴史は、医学史の定番メニューの一つ。今年はハンセン病を2回講義して、「…

「聖アントニウスの火」

聖アントニウスの誘惑 「聖アントニウスの火」と呼ばれた病気を描いたとされる二つの絵を分析した。一つはボッシュの『聖アントニウスの誘惑』、もう一つはグリューネヴァルトの『イーゼンハイムの祭壇画』の中の『聖アントニウスの誘惑』である。 リスボン…

貧民から歯を抜いて、それを金持ちの入れ歯とすること

18世紀の入れ歯について 18世紀のヨーロッパにはアメリカ新大陸のプランテーションが成功したサトウキビから製造された砂糖が普及する一方、歯科衛生がまだ発展していなかったため、歯の状況は人類史上最悪だったと言われている。しかし、すぐに歯科医療が発…