Entries from 2013-01-01 to 1 year

「精神医学の哲学」コンファレンス

Tokyo Conference on Philosophy of Psychiatry 2013 September 20-23, 2013 東京大学駒場Iキャンパス 9月20日〜23日にかけて、東京大学駒場Ⅰキャンパスで精神医学の哲学に関する国際会議が開催されます。 現在参加登録を募集しています。詳しいプログラム等…

戦間・戦後の精神病をめぐる創作2点

森三千代『森三千代鈔』(東京:濤書房、1977) 森三千代は詩人の金子光晴の妻で、自身も詩や小説などを発表してきた。「天狗」という短編は1946年10月に「文明」に発表された作品で、1944年に東京で没した作家の辻潤の晩年に取材している。辻潤は「岡老人」…

検疫の歴史コンファレンス

2014年8月にオーストラリアで検疫の歴史のコンファレンスが開催されます。アブストラクトの締切は9月16日。 Just a reminder of our call for papers, deadline 16 September 2013. Please circulate to any interested parties! Quarantine: History, Herit…

『医療の歴史』より「病院の歴史」・第二節の草稿

おそらく公の場でいうのは初めてだと思いますが、『医療の歴史』(仮題)という書物を書いています。1500年以降の西欧を軸とする医療の歴史で、過去30年ほどの新しい医学史研究の視点をできるだけ総合した書物を意図していて、私が書くだろう書物の中では、…

中村江里「日本陸軍と戦争神経症」

皆さま 次回の医療・文化・社会研究会(旧医学史研究会)のご案内をさせていただきま す。直前になりましたら、リマインダーをお送りいたします。ふるってご参加く ださい。 --- 2013年度 医療・文化・社会研究会 第2回例会 発表者:中村江里さん(一橋大学…

『レオ・アフリカヌスの生涯 』(リブロポート, 1989)

レオ・アフリカヌス(c.1494-c.1554)は、グラナダに生まれ、フェズで育ったのち、地中海のイスラム世界の各地を回り、最後には捉えられてキリスト教に改宗した人物である。彼が著名な理由は『アフリカ地誌』と呼ばれている書物で、1526年に完成して1550年代…

「サイケデリック」と文学者と精神科医の二行詩

“psychedelic” という語が作られた経緯が面白いのでメモ。19世紀の半ばから、アヘン、ハシシ、メスカリンなどの向精神物質 (psychotropics)を服用してその効果を記すことは、ボードレール、ベンヤミン、アンリ・ミショーなどの古典的な作品を生んでいる。20…

血族結婚村と不適格者の淘汰

篠崎信男「血族結婚部落の人類学的調査概報―山梨県南巨摩郡西山村奈良田に於いて―」『人類学雑誌』vol.60, no.3: 1949: 197-100. 昭和18年9月に厚生省研究所・人口民族部が行った、血族結婚に関する優生学的研究が発表したもの。南巨摩郡の西山村の奈良田の…

モーパッサンの精神病短編二編

モーパッサン「オルラ」『モーパッサン短編集 III』青柳瑞穂訳、152-194. モーパッサンの「オルラ」は、セーヌ川沿いの街ルーアンに住む男が、精神が変調して最後には妄想に呑み込まれるようにして精神が荒廃していくありさまを描いた短編です。最初は妙な感…

ワークショップ「比較モダニズム―心理学・文学・情動」

9月14日(土曜日)に成蹊大学で国際ワークショップ「比較モダニズム論―心理学・文学・情動」が開催されます。 Comparative Modernisms: Psychology, Literature, and Affect —International Conference— 14 September 2013 Seikei University, Tokyo Financi…

高砂族の自殺

奥村二吉「高砂族の自殺」『台湾医学会雑誌』vol.42, 1943: 200-214. 著者の奥村二吉は、のちに岡山大学精神科の教授となり、内観療法を提唱したことで名高い。この論文は、昭和11年から15年に台湾の高砂族の自殺を調査して、死後の霊魂と自殺についての思想…

台湾原住民(高砂族)の精神医学的研究

米山達雄・分島俊「高砂族の精神医学的研究」『台湾医学会雑誌』vol.40, 臨時号、1941: 1-31. 民族の比較精神病学的な研究は、帝国医学の広がりや、クレペリンが20世紀の初頭に提唱したことなどから、世界各国で実施され、日本でも戦前には盛んであった。も…

アメリカ人類学者の精神医学的日本人論(1945年)

La Barre, Weston, “Some Observations on Character Structure in the Orient”, Psychiatry, vol.8, 1945: 319-342. 「人間に文化と言語の違いがあるからこそ、文化というものが存在し、そこに本質があることを意識したのである」と語る文化人類学者のラ・…

16世紀イタリアの<胆石・結石>は奇跡か異常か

Touber, Jetze, "Stones of passion: Stones in the internal organs as liminal phenomena between medical and religious knowledge in Renaissance Italy", Journal of the History of Ideas, 2013, 74(1): 23-44. 15世紀から16世紀のイタリアにおける聖…

精神医学的フィールドワーク: 京大の南方民族調査(1942年)

三浦百重・村上仁「南方民族の精神病」『精神神経学雑誌』vol.48, no.2: 1944: 69-78. 1930年代には精神医学フィールドワークが流行し、大和民族と大東亜共栄圏内のさまざまな民族を精神医学的に研究することが行われた。規模ははるかに大きいが、アメリカで…

石川信義『心病む人たち』(東京:岩波新書、1990)

石川信義『心病む人たち』(東京:岩波新書、1990) 石川信義は精神科医で、東大の経済学部を卒業して就職したあと医学部に入り直して精神科医になったという少し変わった経歴を持つ。1968年に日本初の完全開放の精神病院である三枚橋病院を群馬県太田市に創…

ジゲリストと「舞踏病」の民俗学的な解釈

ヘンリー・ジゲリストの Civilization and Disease は医学史の古典中の古典であり、岩波新書から『文明と病気』として翻訳されている。その中に「病気と音楽」(下巻 pp.123-146)という有名な章があり、そこでジゲリストは中世の時代に南イタリアのアプリア…

実験室の方法とペストの歴史

Little, Lester K., “Plague Historians in Lab Coats”, Past and Present (2011) 213 (1): 267-290. ペストの病原体が発見されたのは1894年の香港で、アレクサンドル・イェルサンと北里柴三郎の二人の偉大な細菌学者が競いあって、一時は北里がリードしたが…

高橋お伝とハンセン病

高橋お伝とハンセン病 邦枝完二『お伝地獄』上・下(東京:講談社, 1996) 大衆作家の邦枝完二は、1934年から35年にかけて『読売新聞』夕刊に『お伝地獄』を連載した。その作品についてメモ。 高橋お伝は1850年に生まれ、1879年に斬首刑とされた。その犯罪と…

『東海道四谷怪談』

鶴屋南北『東海道四谷怪談』河竹繁俊校訂、岩波文庫 (東京:岩波書店, 1956) 『東海道四谷怪談』は1825(文政8)年に、当時71歳の円熟期であった鶴屋南北が書き下ろした作品である。民谷家に婿に入った伊右衛門が妻のお岩を裏切り、顔面が崩れて醜くなった…

Triumph of the Will (a 1935 film)

Triumph of the Will is a 1935 documentary film made by Leni Riefenstahl featuring the Nazi Party Congress in Nuremberg in 1934. I have never seen this famous film from its opening to the end, and I should have done so as soon as I started …

『黒焼の研究』

第一次世界大戦は、日本の医学のある部分をドイツへの重度の依存から独立する方向に向けたとされている。1918年8月にヨーロッパで第一次大戦がはじまると、日本は即座にドイツに宣戦したが、そのためドイツと断交状態になり、医学的な知識・技術・物資・製品…

日本の優生学と精神医学

日本の優生学と精神医学の連関は興味深いが、まだ研究も分析も進んでいない。欧米の先進国におけるのとは違った連関であったことは確かである。ナチスにおけるような安楽死は日本では政策として実施されなかったことはなかったし、ドイツ以外にも北欧やアメ…

フィリピンの近代化と民間習俗との闘い

Reyes, Raquel A.G., “Sex, Masturbation and Foetal Death: Filipino Physicians and Medical Mythology in the Late Nineteenth Century”, Social History of Medicine, 22, no.1, 2009: 45-60.西洋医学の導入にともなって、近代医学の視点で当地の民間習…

櫻井図南男「事態神経症に就て」

櫻井図南男「事態神経症に就て」『福岡医学雑誌』35(1942), 1283-1318.日本における戦争神経症と外傷性神経症についての古典的な論文の一つ。必読にして傑作の論文。「事態神経症」というのはブロイラーがある特定の事態に基づいて発生するものを「事態精神…

榊によるアイヌのイム論文

榊保三郎「イムバッコ(アイノ人に於ける一種の官能精神病)に就て(一月例会演説)」『東京医学会雑誌』15(1901), no.4, 1-15.榊が書いたアイヌのイム論は、精神病医がアイヌのイムを実際に観察して書いた唯一の論文として長いこと標準的なものであり、榊が…

江戸の藩医たち

必要があって、プロの近世史の研究者による医療史研究を読む。文献は、海原亮『近世医療の社会史―知識・技術・情報』(京都:吉川弘文館、2007)著者が色々な箇所に論文として出版したものに訂正を加えてまとめて一冊の書物にしたもので、それぞれの論文の実…

明治19年の神田のコレラ

ここしばらく、研究書や論文を読む暇がありません。 たまには、自分の研究の話をさせてください(笑)明治19年の東京のコレラを、町名ごと・一日ごとに患者の数が分かる資料を見つけて、データペース化して分析している。1500くらいの町名に関して、だいたい…

明治東京のスラム・クリアランス

必要があって、明治東京の市区改正を論じた古典を読む。文献は、藤森照信『明治の東京計画』(東京:岩波現代文庫、2004)明治14年に東京防火令が出て、中央三区(神田、日本橋、京橋)の主要街路および運河沿い家屋へのレンガ、石、蔵造りによる路線防火体…

漁村の疾病

漁民の歴史の本を読む。文献は、岡山達明『近代民衆の記録7 漁民』(東京:新人物往来社、1978)この本は、コレラの伝播のメカニズムを調べていて、そのヒントを得るために目を通してみた本で、いくつもの大きなヒントがあった。この記事では、そのことでな…