Entries from 2018-09-01 to 1 month

ムラージュと蝋細工、パピエ・マシェと張り子について

19世紀末に流行した技法で、蝋細工を用いて病理標本を作製する技法をムラ―ジュという。これを蝋細工というとその歴史の書き方が変わってくるという書評を書いた。 その過程で出会ったもう一つの技術がパピエ・マシェという技法である。日本の医学史の世界で…

ミソジニー misogyny とは何か?

先の記事で「ミソジニー」という言葉を使いまして、日本のお医者さまからこれは何かというような内容のご指摘を FB で受けました。実は、私も、1990年代にイギリスで過ごしたときには、最初はまったくわからない概念でして、学友に聞いたり、18世紀の医学書…

16世紀のミソジニー・死・解剖図譜

今日の午前中は少しのんびりして、明日のジェンダー論のPPTを作った。思春期と男女のヒステリーの話を90分でまとめる講義である。主力は19世紀と20世紀前半で、シャルコーの女性のヒステリーと、20世紀前半の戦争における男性兵士のヒステリーの話である。初…

ひらりねこ、娘の東京帰りを立ちはだかって阻止しようとした事件(笑)

一週間ほど前の連休に、今年の春に東京で仕事を始めた娘が数日間ほど家に帰ってきました。私たちにとっても、娘にとっても、そしてひらりねこにとっても、とても大切な時間でした。家から新幹線の駅に車で行こうとしたときに、ひらりねこは、車の下に入って…

中外医事新報のウェブ公開

日本医史学会は機関誌である『日本医史学雑誌』の前身誌である『中外医事新報』をウェブ公開の準備を進めることにしたとのこと。素晴らしいニュースです! 『中外医事新報』は1880年に刊行を開始して、医学の最新の知見・情報を広く伝えるとともに、先人の事…

18世紀ボローニャの女性の栄光と解剖職人・蝋細工職人・家族の女らしさ

石原あえか先生のご著書『日本のムラ―ジュ』を書評できることになった。これは素晴らしい幸運で、優れた著作を楽しませていただいた。一方で、著作が優れていると、正々堂々と批判する機会にもなる。これまで何回かそのような書評をしたが、今回もそのような…

日本野鳥の会 Toriino (トリーノ)48号(2018年9月発行)

日本野鳥の会 : Toriino (トリーノ) 表紙:田中一村「枇榔樹(びろうじゅ)の森に浅葱斑(あさぎまだら)蝶」 日本野鳥の会が季刊で出している Toriino はとても面白い。何度もこう書いていてくどいかもしれない(笑)今回も楽しい号だけれども、面白いのが表紙…

『人体実験の哲学―「卑しい体」がつくる医学、技術、権力の歴史』をいただきました!

www.akashi.co.jp Chamayou, Gregoire, 加納由紀子訳. 人体実験の哲学―「卑しい体」がつくる医学、技術、権力の歴史. 明石書店, 2018. 死刑囚、解剖学、死後の実験、死刑囚の身体、種痘、医師の自己実験、臨床、治療的試験、実験、病理、動物実験、消化器、…

伝統医学アーユルヴェーダについて

アーユルヴェーダ - Wikipedia 結核の国際的な側面の記事を読んでいて、インドの伝統医学の医師「アーユッシュ」が結核を診断できないという記述にぶつかった。ちょっと日本語の Wikipedia で「アーユルヴェーダ」を検索したところ、この記事の水準が高くて…

世界の結核の現在

www.who.int エコノミストのエクスプレスが結核だったので、WHO のサイトにも行ってみた。2018年のレポートが刊行されていた。 戦後の日本が結核を克服したエピソードはとても有名であるが、その死亡率の低下がなかなか継続せず、現在でも死亡が「中程度」で…

マダム・タッソーと蝋細工の歴史とジェンダー論

Berridge, K. (2007). Waxing mythical: the life and legend of Madame Tussaud, John Murray. ロンドンではマダム・タッソーの博物館のすぐ隣に住んでいた時代があった。基本は貧乏だったので一度も行ったことがないし、敵意に近い感覚も持っていた。ただ…

磯部裕幸『アフリカ眠り病とドイツ植民地主義ー熱帯医学による感染症制圧の夢と現実』(みすず書房、2018) の書評

dokushojin.com 『週刊読書人』に磯部裕幸先生の『アフリカ眠り病とドイツ植民地主義ー熱帯医学による感染症制圧の夢と現実』(みすず書房、2018) の書評を書きました。ドイツの歴史学の博士論文をもとにした、とても優れた書籍です。帝国主義の時期のヨーロ…

1518年のストラースブルクにおける舞踏精神疾患の流行現象

Waller, John. A Time to Dance, a Time to Die: The Extraordinary Story of the Dancing Plague of 1518. Icon, 2008.Midelfort, H. C. Erik. A History of Madness in Sixteenth-Century Germany. Stanford University Press, 1999.Davidson, Andrew. "Ch…

琺瑯(ほうろう)のストッカーを買いました

野田琺瑯株式会社 野田琺瑯という会社があり、昭和9年に創業した琺瑯の生産を中心とする企業である。琺瑯は「ほうろう」と読む。「ほうろう」は英語では enamel というが、その歴史は非常に古く、エジプトなどに起源を発し、ツタンカーメン王のマスクにもほ…

ロンドンの科学博物館にてロシア皇帝家族と血友病に関する展示

https://www.sciencemuseum.org.uk/see-and-do/last-tsar-blood-and-revolution Haemophilia in the Descendants of Queen Victoria エコノミスト・エクスプレスの記事。ロンドンの科学博物館でロシア皇帝一家についての大きな展示が始まったとのこと。難し…

『精神障害を哲学する』をいただきました!

東大駒場の科学史・科学哲学の石原孝二先生のご著書『精神障害を哲学するー分類から対話へ』をいただきました。 ピンクのビラは<「病院」から「地域」へ、「診断」から「当事者」へ、「分類」から「対話」へ> と書かれ、斎藤環先生が「哲学者の透徹した視…

医療におけるAI(人工知能)の導入について

医学書院/週刊医学界新聞(第3289号 2018年09月17日) 昨日の英語セミナーの後で、医学部の学生と話す機会があり、東京医科大学の話をしながら、日本の医療の将来はどうなるのだろうかという話になった。 日本の医師数は、人口比で言うと世界の先進国でもかな…

ベスレム博物館とベスレムギャラリーとダーウィンのダウン・ハウス

museumofthemind.org.uk bethlemgallery.com www.english-heritage.org.uk 2018年9月17日(月曜日)の国際ワークショップと展示。無事に終了いたしました。愛成会の精神疾患者の作品と並んで大きな注目を引いたのが、ベスレム博物館とベスレム・ギャラリーの…

主観と客観とビッグデータと少数データ

神田橋條治. (2017). "主観・客観." 九州神経精神医学 63: 73-74. 私が出席できなかったセミナーで、九州大学の精神科医の黒木先生が配った論文を読ませていただいた。私が最近考えていることと重なる主題である。近年の精神医療で主観と客観の問題がどのよ…

『スウェーデンのアール・ブリュット発掘』のお礼

igakushitosyakai.jp 月曜日には慶應日吉で国際ワークショップの開催。タイトルは<国際ワークショップ 精神医療の「過去」と「現在」を展示する-医学史博物館と美術ギャラリーの社会的役割をめぐって-> 歴史学者、アーキビスト、場合によっては医師とい…

ローレンス・M・プリンチーペ『錬金術の秘密ー再現実験と歴史学からときあかされる<高貴なる技>』(勁草書房、2018)

もう一冊いただいた書物は、プリンチーペ先生がお書きになった名著で、ヒロ・ヒライ先生が訳されたおそらく名訳の『錬金術の秘密』です。錬金術が持つさまざまな重要な特徴を、古代ギリシア、中世アラビア語世界、中世ヨーロッパ、そして近代を先に論じたう…

西迫大祐『感染症と法の社会史』(新曜社、2018)

西迫大祐さまに『感染症と法の社会史』という書籍をいただきました。18世紀から19世紀後半までのフランスという、さまざまな意味で非常に重要な地域をとりあげています。感染症を日本語で論じてくださっています。マルセイユのペスト、パリの悪臭の問題、種…

飛行機と鳥の衝突を回避する巨大科学について

バードウォッチングをしていると、鳥が新幹線や飛行機と衝突する光景が時々目に入る。実際、新幹線や飛行機の便数が増えることは、飛行中の鳥のリスクが急激に増大することを意味することはほぼ間違いないだろう。そこをなんとなかするようになっているとい…

ガネーシャのお祭り!

エコノミストのエスプレッソより。今年の9月13日から、ヒンドゥー教の神であるガネーシャのお祭りがインドなどで行われるとのこと。象の頭と人の体を持ち、商業や学問の神様で、時々酔っぱらってしまう楽しさもあるとのこと。私はガネーシャの小さな像を持っ…

地図とグラフで理解するヨーロッパの反移民・保守反動の政党について

www.economist.com 昨日もエコノミストでヨーロッパの反移民と保守反動の政党についての記事を読んだが、今日も似たような内容の記事。この数年にわたり、反移民で保守反動の政党がいくつもの国で大きく伸びている。一方で、そのような政党の成長はピークに…

スペイン風邪の100周年記念の舞踏パフォーマンス

www.bl.uk スペイン風邪の100周年記念の舞踏パフォーマンス。大英博物館で行われ、おそらく1918年の10月くらいのピークを記念したものになるのだろう。エゴン・シーレがスペイン風邪で死亡したことにインパクトを得た作品なのだろうか。 スペイン風邪はとて…

移民と民主主義とスウェーデンでの選挙

www.economist.com 民主主義と移民の問題は、世界中で強い不安を持つ人々が多いだろう。移民が先進国のさまざまな水準を将来的に上げる可能性は高いが、現在の段階で落としている国が多いことも事実である。貧困率や犯罪率も高い。そのせいでイギリスの Brex…

Work in Progress: Young Scholars’ Workshop in English

9月19日に慶應義塾大学・日吉キャンパスの来往舎の2階会議室で英語セミナーを開催いたします。文学部の学部3年生から、ポスドクや准教授や教授などの作り出す Young Scholars' Workshop in English です。終了後は、キャンパスの Hub というイギリス風のパブ…

高齢者の家庭における高度技術的な健康ケアの分析

www.academia.edu 四谷のドイツ日本研究所のスザンヌ・ブルキッシュ先生の論考。生活と技術が融合していく最も大きな領域は、家庭における高齢者の介護や自活のためのテクノロジーの利用なのかもしれません。私が少年時代の頃のマンガ風の近未来図ですと、技…

ドレッシング入門

私はお料理が絶望的に下手である。できるお料理は三つだけで、卵をゆでる、ソーセージをゆでる、そしてアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノのスパゲッティを作ることである。それ以外のお料理はすべて実佳がしてくれて、どれも夢のように美味しい。 しかし、…