Entries from 2012-07-01 to 1 month

イムと社会・文化

中川秀三「アイヌの話」『北海道精神衛生』no.10(1966), 1-5.高畑直彦「イムの文化的背景」『精神医学』25(1983), no.1, 37-43.中川は、論文執筆時点では札幌医科大学の教授で、学生時代には北海道帝国大学の精神科で、昭和10年近辺の内村のアイヌの精神病調…

戦没者の霊の問題

石川公彌子「近代日本人の死生観」『死生学研究』「特集号―東アジアの死生学へ」、18-33.日本人の死生観というより、国学者の本居宣長と平田篤胤、民俗学者の柳田國男と折口信夫の死生観の研究であるが、非常に面白い史実を指摘して鋭い考察がされていたので…

子母澤寛『味覚極楽』と東京・関西の料理

子母澤寛『味覚極楽』人に勧められて、子母澤寛『味覚極楽』を読む。もともとは、当時は東京日日新聞の記者であった子母澤が、昭和2年から3年にかけて、当時の名士が美味について語る企画を連載した32編の記事がもとになっている。このそれぞれに、昭和32年…

「処女地感染」再考

Jones, David S., “Virgin Soils Revisited”, The William and Mary Quarterly, 3rd ser., 60(2003), 703-742.いわゆる「生物学的歴史」の中心的なテーマである「処女地感染」の問題の急所を押えた必読の論文である。アメリカ大陸の先住民が激減した最大の理…

「そば尽し」祝い唄

多田鉄之助『蕎麦漫筆』より、「そば尽し」の祝い唄を。明治20年頃までは、年越しの夕方になると、「厄落とし」と称して「厄払い」なる職業が存在した。それを呼び入れると、銭若干と餅を与えるのが通例になっていた。これは「アアらめでたいな」という決ま…

小峰茂三郎のアイヌのイム

小峰茂三郎「『アイヌ』の『イム』に就て」『日本医事新報』no.685, 1935.10.19, 3201-2.1932年に秋元が発表したアイヌのイムについての論文は、この主題についての久しぶりの新規の観察であり新しい議論ということもあって、一定の注目を集めた。これは東京…

「死なう団」のメンバーの精神病

保阪正康『死なう団事件―軍国主義下のカルト教団』(東京:角川文庫、2000)必要があって、「死なう団」と呼ばれた日蓮宗系の宗教団体についてのノンフィクションを読む。著者は著名な著作家で、もともとは1970年の三島由紀夫の自決に刺激されて調査を始め、…

臓器移植のグローバル・トレードと医療倫理

Scheper-Hughes, Nancy, “The Last Commodity: Post-Human Ethics and the Global Traffic in ‘Fresh’ Organs”, in A. Ong and S.J. Collier eds., Global assemblages: Technology,, Politics, and Ethics in Anthropological Problems (London: Wiley-Blac…

日本の戦争神経症

細渕富夫・清水寛・飯塚希世「日本帝国陸軍と精神障害兵士[II] ―国府台陸軍病院『病床日誌(昭和20年度)』の戦争神経症患者の症例」『埼玉大学紀要 教育学部(教育科学)』49(2000), no.2, 51-62.来年の2月が締め切りで、日本の戦争神経症について、論文集…

フリオ・コルタサル『遊戯の終わり』

フリオ・コルタサル『遊戯の終わり』木村榮一訳(東京:岩波文庫、2012)人に勧められて、フリオ・コルタサルの短編集を読む。コルタサルはベルギーで生まれアルゼンチンで大学を出てフランス文学の大学教員となったが、1951年にはフランス政府給費奨学生と…

赤松啓介『差別の民俗学』

赤松啓介『差別の民俗学』(東京:ちくま書房、2005)「夜這いの民俗学」で著名な民俗学者の著書を読む。部落差別の問題を、より広い村落共同体の内部における「家系」による差別・差異化とつなげる優れた視点であり、特に疾病による差別にも言及している箇…

筒井清忠『二・二六事件とその時代』

筒井清忠『二・二六事件とその時代―昭和期日本の構造』(東京:ちくま学芸文庫、2006)政治史は私が最も苦手にしている分野だが、二・二六事件についての優れた著作を読む。もちろん学術的な政治史の著作だから、ファシズムや革命についての国際比較を含む理…

日本近世の夢

『説経節 山椒大夫・小栗判官他』荒木繁・山本吉左右編注(東京:平凡社、1973)『説経節』に収録されている「信徳丸」を読む。説経節というのは、近世初期に操り芝居と結びついて流行した語り物・芸能である。もともと中世にも存在したが、三都の操り芝居で…

カンフルの精製

『ナショナル・ジオグラフィック』日本版2012年6月号よりhttp://nationalgeographic.jp/nng/article/20120518/309410/九州地方の山中において、樟脳(カンフル)を精製する方法を示した写真である。樟脳は台湾に原生するクスノキを原料にして生産される重要…

押野武志「破砕される身体」

押野武志「モダニズム文学と『破砕される身体』-江戸川乱歩・葉山嘉樹・宮沢賢治」中山昭彦・吉田司雄編著『機械=身体のポリティーク』(東京:青弓社、2006), 19-45.乱歩、葉山嘉樹、賢治の三つの文学作品に共通する「破砕される身体」という主題を、それ…

水上勉『精進百選』

水上勉『精進百選』(東京:岩波書店、2001)「料理本」の話をしているときに、尊敬している若い学者がこの本の話を出したので、さっそく買って読んでみた。 冒頭に、自分の禅僧としての修行のありさまと、老齢になっての大きな心臓病の患いのあとで信州に移…

18世紀以前の天然痘の予防技術

Boylston, Arthur, “The Origin of Inoculation”, Journal of the Royal Society of Medicine, 2012: xxxx, 1-5.人痘や種痘の起源についての刊行予定の論文が、ゲラの段階でSmallpox メイリングリストに投稿されて話題になったので読んでみた。確かに明晰に…

アイヌのイムについて

秋元波留夫「アイヌの所謂『イム』に就いて」『蝦夷往来』7号(1932), 1-10.秋元が1932年に出版した論考は、内村祐之の研究室が初めてイムに出会ったことを報告したものであり、重要なマテリアルである。秋元は後に東大教授となるが、この論文の時点では、…

『テルマエ・ロマエ』

話題の映画『テルマエ・ロマエ』を観る。古代ローマの技師が現代の日本にタイムトリップして、銭湯、温泉、バス・トイレの技術をローマ帝国に移転する、科学技術と生活文化のコメディ映画。ローマの有名な公衆浴場、ハドリアヌス帝の個人浴場、そして軍隊が…

『日本八景』

幸田露伴・吉田絃二郎・河東碧梧桐・田山花袋・北原白秋・高浜虚子・菊地幽芳・泉鏡花『日本八景』岡田喜秋解説(東京:平凡社、2005)昭和2年に、東京日日新聞、大阪毎日新聞の東西の二大新聞社が、日本を代表する風景を選ぶこととなった。鉄道省の後援を得…

優生学的精神医学の講演会(1932?)

小関光尚『遺伝の話』精神衛生パンフレット第4号(1932)精神衛生協会は遺伝と優生学の啓蒙活動に力を入れており、この大阪支部の発会講演で行った話は、精神病の遺伝について話したものである。小関は中宮病院の院長だが、その話は軽妙なものだったらしく、…

第6回アジア医学史学会・途中経過報告

第6回アジア医学史学会 組織途中経過報告2012年12月13-15日に、慶應義塾大学・日吉キャンパスで行われる第6回アジア医学史学会について、現在 (7月8日)の時点での組織の様子を報告します。以下のとおり、プレナリー・スピーカーも決定し、パネル申込みも数…

戦前大阪のモルヒネ中毒と朝鮮人労働者

小関光尚・森本誉愛「最近大阪府立中宮病院に於て治療したる慢性モルヒネ中毒患者百例に就て」『民族衛生』6(1934), 19-30.小関光尚は、ネット上で調べた情報では、ウィーンに留学し、優生学、社会事業、遺伝学、性格学などについての著作活動がある。日本精…

中西進『狂の精神史』

中西進『狂の精神史』(1978; 東京:講談社文庫、1987)著名な国文学者による「狂」を論じた評論である。文学研究のプロが見たらどう思うのかは分らないが、私のような門外漢が楽しく読む分には素晴らしい書物だと思う。 しかし、この書物が書かれた昭和53年…

古典古代の夢とその歴史

Harris, William V., Dreams and Expeerience in Classical Antiquity (Cambridge, Mass.: Harvard University Press, 2009).古典古代の夢について、包括的な構造を持った理論的な枠組みで考察しようとしている野心的な著作であり、同時にフロイト理論をはじ…

橋本毅彦・講演会

直近ですが、講演会のご案内です。橋本毅彦「空気力学と速度の追求:戦前日米欧・航空研究の比較科学技術史」7月6日18時 東京大学駒場 14号館3階308室 「20世紀初頭に生まれた航空機改良のための国家的研究開発のあり方について、英米日各国を比較しつつ分析…

多田伊織「『外台秘要方』所引『僧深方』輯佚」

多田伊織「『外台秘要方』所引『僧深方』輯佚」『日本研究』no.45(2012)をいただいた。どうもありがとうございます。恥ずかしながら、論文のタイトルの「輯佚」という言葉の読み方も意味も、調べなければ分りませんでした。Wikipedia の「逸文」の項目に説明…

『芸術新潮』「いわさきちひろ特集」

『芸術新潮』の7月号では、いわさきちひろの特集を組んでいる。実は、子供の頃に読んだ思い出がある作品で、いわさきちひろが挿絵を描いた作品を思い出すことが難しい。あまんきみこの『おにたのぼうし』がいわさきちひろの絵だったことは思い出せるが、この…

ヘルマン・オッペンハイム

Oppenheim, H., Lehrbuch der Nervenkrankheien fuer Aerte und Studierende, 2 vols., 4th ed., (Berlin: Verlag von S. Karger, 1905), 2: 1275; Oppenheim, H., Lehrbuch der Nervenkrankheien fuer Aerte und Studierende, 2 vols., 5th ed., (Berlin: V…