Entries from 2008-03-01 to 1 month

ガルシア=マルケス『エレンディラ』

ガルシア=マルケスの短編小説を集めた作品集を読む。鼓直・木村栄一訳の『エレンディラ』(ちくま書房)。表題作ほか、六編の「大人のための残酷な童話」として書かれた短編をおさめている。老婆とその孫娘がコロンビアの田舎町で暮らしていた。老婆の夫は…

J.L. ボルヘス『伝奇集』

春のうららの午後、新宿から河口湖まで中央本線と富士急を乗り継いで、緩慢に、そして不可避的に進む電車の中で(笑)、ボルヘス『伝奇集』を読む。窓の外のひなびた風景が、形而上学的な謎に満ちているかのように見えてきた傑作だった。鼓直による訳の岩波…

飯島晶子『伝わる声の出し方・話し方』

朗読家でYahoo! ブロガーの 「あきこさん」の新しい本のお知らせを拝見したので、アマゾンで予約して読む。文献は、飯島晶子『毎日5分の朗読トレで身につく! 伝わる声の出し方・話し方』(東京:日本実業出版社、2008)飯島さんのブログ・ウェブサイトはこ…

医学の黄金時代とその終わり

未読山の中から、アメリカ医学の黄金時代とその終焉を論じた短い論文を読む。文献は、Burnham, John C., “American Medicine’s Golden Age: What Happened to It?”, Science, 215(1982), 1474-1479.「アメリカにおいては20世紀の中葉が医学の黄金時代であり…

江戸時代の麻疹 I

今日はいつもと違う性格の記事を書きます。私がずっと不思議に思っていることがあって、皆さんにアイデアをいただきたいという趣旨です。「痘瘡は器量定め、はしかは命定め」という江戸時代のことわざの意味を正確に知りたいのです。このことわざは、江戸時…

疫学と奴隷貿易

疫学と奴隷貿易についての古典を読む。クロスビーだとかダイアモンドがよりコンパクトに、そして生物学的に洗練された仕方で説明した内容だけれども、オリジナルの論文を読むと、どんな疑問を考える中でこの問題に突き当たったのかがわかって楽しい。論文は…

移民と疾病のマクロヒストリー

移民と疾病の巨視的な歴史モデルについての論文を読む。文献は、McNeil, William H., “Historical Patterns of Migration [and Comments and Reply]”, Current Anthropology, 20(1979), 95-102. このあいだ文庫で復刊された必読の名著『疾病と世界史』を圧縮…

歴史疫学

歴史疫学についての大きな理論的考察を含んだ優れた論文を読む。文献は、Landers, John, “Historical Epidemiology and the Structural Analysis of Mortality”, Health Transition Review, 2(1992), Supplementary Issue, 47-75. この論文と、それからそれ…

黄熱病と「根絶」概念

黄熱病の根絶計画に携わったもの学者自身が、疫学上の「根絶」概念の盛衰を回想した記録を読む。文献はSoper, Fred L., “Rehabilitation of the Eradication Concept in Prevention of Communicable Diseases”, Public Health Reports, 80(1965), 855-869. …

イザベラ・バード『日本奥地紀行』

必要があって、イザベラ・バード『日本奥地紀行』を読む。高梨健吉訳で平凡社文庫から出ている版で読んだ。イギリスの女性旅行家で、南北アメリカや朝鮮など世界各地を旅行して多くの旅行記を出版したイザベラ・バードが1877年(明治11年)の6月から9月にか…

『泥の河』

「そういうことを調べているのなら」と、知人に薦められて宮本輝の処女作『泥の河』を読む。有名な『蛍川』『道頓堀川』と一緒にちくま文庫におさめられている。「堂島川と土佐堀川がひとつになり、安治川と名を変えて大阪湾の一角に注ぎ込んで行く。その川…

漂海民

知人に薦められた本を読む。昨日に続いて、日本漁業史の泰斗の羽原又吉の作品で、『漂海民』(東京:岩波新書、1963)今から50年近く前の著作とは信じられないほど面白くて、あと私が知りたいことに少し関係があった。漂海民というのは、陸上に生活の基盤を…

漁業の歴史

必要があって、近代漁業の歴史の研究書に目を通す。文献は、羽原又吉『日本近代漁業経済史』上下(東京:岩波書店、1955)重厚で長大な本だけれども、一部だけ要約する。明治維新の後に、自由営業の建前のもと、それまでの「株」や「座」というギルド的な組…

「熱帯」という概念

熱帯医学の歴史研究の第一人者による「熱帯」概念の形成をコンパクトに論じた論文を読む。文献は、Arnold, David, “The Place of ‘the Tropics’ in Western Medical Ideas since 1750”, Tropical Medicine and International Health, 2(1997), 303-313. 「熱…

ロックフェラー財団のマルクス主義的分析

昨日に続き、ロックフェラー財団の活動の分析を読む。文献は、Brown, E. Richard, “Public Health in Imperialism: Early Rockefeller Programs at Home and Abroad”, American Journal of Public Health, 66(1976), 897-903. 古いマルクシストの分析だけど…

ロックフェラー財団によるメキシコの鉤虫コントロール

必要があって、ロックフェラー財団が1910年代から始めたメキシコの鉤虫コントロールの論文を読む。重要な論点をクリスプに示した優れた論文。文献は、Birn, Anne Emanuelle, “Public Health or Public Menace? The Rockefeller Foundation and Public Health…

山海経

必要があって『山海経』(せんがいきょう/さんかいけい)に目を通す。高馬三良訳の平凡社文庫版。カバーにかいてある情報をほぼ丸写しさせていただくと、中国古代の地理書、著者は不詳、もっとも古い部分は戦国時代(紀元前5-3世紀)に成立し、そのご、秦・…

聊斎志異

必要があって『聊斎志異』を読む。もともと仕事の関係で読んでおこうと思ったのだけれども、読み始めたらものすごく面白かった。色々な版が出ているのだろうけれども、全体の1/3 くらいが訳出された岩波文庫版の上下二巻を読んだ。全訳したものを一冊に収め…

フランスのアフリカ植民地のマラリア

フランスのアフリカ植民地におけるマラリアの歴史を読む。文献は、Cohen, William B., “Malaria and French Imperialism”, Journal of African History, 24(1983), 23-36. これまで知っていたこと、話していたこと、それどころか教えていた説明とまったく正…

かんきつ類の文化史

かんきつ類の文化史を読む。文献は、Laszlo, Pierre, Citrus: a History (Chicago: University of Chicago Press, 2007)同じ著者の塩の文化史 (Salt )はとても面白い、スタイリッシュな内容の本だった。売り上げもかなり良かったと聞く。二匹目のドジョウ…

妖怪画集

出張の新幹線の中で江戸の妖怪画の巨匠の作品集を眺める。文献は、鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』。角川ソフィア文庫からコンパクトな本が出ていて、200点あまりの作品が定価667円でとてもお買い得。それぞれの妖怪にもうちょっと説明がついていると面白い…

ウェルカム図書館

ロンドンにあるウェルカム図書館を紹介した本を読む。文献は、Gould, Tony ed., Cures and Curiosities: Inside the Wellcome Library (London: Profile Books, 2007). ウェルカム図書館の利用者やライブラリアンなど関係が深い人たちが、大きな文字と美しい…

環境と疫学

環境疫学の第一人者による、過去・現在・未来の環境変動が健康に与える影響を論じた書物を読む。文献は、McMichael, Tony, Human Frontiers, Environments and Disease: Past Patterns, Uncertain Frontiers (Cambridge: Cambridge University Press, 2001).…

『ライラの冒険―黄金の羅針盤』

娘が読みかけて、嫌いだから読まないといった本で、なんかもったいないのと、かなり珍しいことなのでちょっと興味があって(笑)、フィリップ・プルマン『ライラの冒険―黄金の羅針盤』を読む。新潮文庫から上下で出ていて、いま公開されている映画のスチール…

『ヴァセック』

それほど必要ではなかったけれども、ウィリアム・ベックフォードが1786-7年に出版した『ヴァセック』を読む。BBCのラジオ番組でこの作品のタイトルを耳にしたのがきっかけで、名前は聞くけど実は読んでいないこの作品を読むチャンスだという、まったくの偶然…

中国のSARS

2003年に起きた SARSの流行について、中国に焦点を当てた論文集を読む。文献は、Kleinman, Arthur L. and James L. Watson eds., SARS in China: Prelude to Pandemic? (Stanford, Ca.: Stanford University Press, 2006). 2002年の11月から2003年の7月にか…

内分泌学と性の二元論の否定

必要があって、内分泌学革命を論じた論文を読み返す。文献は、Oudshoorn, Nelly, “Endoctorinologists and the Conceptualization of Sex, 1920-1940”, Journal of the History of Biology, 23(1990), 163-186. 簡潔で優れている。議論としては、19世紀の末…

軍隊の合理的管理と軍陣医学

未読山の中から、軍陣医学の合理化を鳥瞰した論文を読む。文献は、Harrison, Mark, “Medicine and the Management of Modern Warfare”, History of Science, 34(1992), 329-410.著者はイギリスの医学史研究の第一人者の一人で、バランス感覚と目配りがいい仕…

フンボルト科学

未読山の中から、思いがけなく今考えていることの大きなヒントになる概念を見つける。文献はHome, R.W., “Humboldtian Science Revisited: an Australian Case Study”, History of Science, 33(1993).アレクサンダー・フンボルトという名前は知っていたし、…

ヨーロッパの健康転換

未読山の中から、中世から近代にかけてヨーロッパの健康水準が上昇していく過程を簡潔に描いた書物を読む。文献は、Bourdelais, Patrice, Epidemics Laid Low: a History of What Happened in Rich Countries, translated by Bart K. Holland (Baltimore: Th…