Entries from 2008-01-01 to 1 year

アラビアン・ナイトより

今日は無駄話をする。しばらく前から『千夜一夜物語』をちびちびと読んでいる。色々な版や訳があるけれども、私は、何かのゆきがかりで、大場正史がバートン版から訳したちくま文庫のものを読んでいる。古沢岩美というシュールレアリストの画家が描いたイラ…

初期近代の解剖マンダラ

未読山の中から、科学史系の美術史学者で、すぐれたレオナルド研究者のマーティ・ケンプが書いた、西洋芸術における人間と動物論を読む。文献は、Kemp, Martin, The Human Animal in Western Art and Science (Chicago: University of Chicago Press, 2007).…

現象学的地理学

必要があって、現象学的地理学の古典を読む。文献は、イーフー・トゥアン『空間の経験 身体から都市へ』山本浩訳(東京:ちくま学芸文庫、1993)地理学は総じて非常に「硬い」学問なのだろうけれども、ある空間を主観的に経験するメカニズムや、空間に感情的…

病気がはやると魚の値段が下がる?

絵画資料の紹介。内藤くすりの博物館が所蔵している、1862年の麻疹流行の時の錦絵で、左側に描かれている麻疹の悪鬼を、色々な商品が征伐しているという趣向である。商品は、たとえばえびの寿司だとか、「二八」と書かれたそばだとか、カツオのような魚、ま…

明治の厚生官僚の憂鬱

必要があって、『中浜東一郎日記』を読む。文献は、中浜東一郎『中浜東一郎日記』中浜明編 全5巻(東京:冨山房、1992-95)ジョン万次郎の長男である中浜東一郎は安政4年(1857)に江戸に生まれ、明治14年(1881)に東大医学部を卒業し、森鴎外らとともにド…

「東京」の凸凹地図

普通の地図だと等高線の間隔が大きいので、東京都心部の微妙な地形の凹凸というのはわかりにくい。ある町名がどのような地形の上にあるのかを調べる必要があって、何かないかと探していて、たまたまネットで見つけて試しに買ってみた。本の半分は3Dメガネを…

江戸・明治・東京重ね地図

昨日使った二枚の地図は、『江戸・明治・東京重ね地図』というソフトのもの。現代地図と、明治40年ごろの東京の地図と、それから安政三年の江戸の切絵図の三つの地図の間を、自由に行き来して、地名やランドマークを調べることができる。近代地図学に基づい…

宮廷のパラケルスス主義者

必要があって、イギリス宮廷のパラケルスス主義の医者についての研究書を読む。文献は、Trevor-Roper, Hugh, Europe’s Physician: the Various Life of Sir Theodore de Mayerne (New Haven: Yale University Press, 2006)テオドール・ド・メールン(と読む…

環境と健康

必要があって、環境健康論の古典を読む。文献は、McMichael, A.J., Planetary Overload: Global Environmental Change and the Health of the Human Species (Cambridge: Cambridge University Press, 1992). 同じ著者が2001年に出版した Human Frontiers, E…

『東京の地名がわかる辞典』

必要があって、江戸・東京の地名の薀蓄本に目を通す。文献は、鈴木理生『東京の地名がわかる事典』(東京:日本実業出版社、2002)タイトルだけで本を買ってしまって、あてが外れることがたまにある。この本も「事典」というので、地名から引くことができる…

『明治百話』

同じ編者による、古老による明治の世相や風俗の聞き書き。文献は、篠田鉱造『明治百話』(東京:岩波文庫、1996) こちらは新聞への連載ではなく、『幕末百話』の続編の単行本として昭和6年に刊行されたもの。中村草田男の「明治は遠くなりにけり」が昭和11…

『幕末百話』

必要があって、幕末の古老の話を採集した、聞き書きの元祖のような作品を拾い読みに読む。文献は、篠田鉱造『幕末百話』(東京:岩波文庫、1996)篠田鉱造は報知新聞の記者で、先日取り上げた『食道楽』の村井玄斎のもとで記者修行をしたという。明治35年か…

『ケルトの薄明』

昨日に引き続いてイエイツのケルトもの。文献は、W.B. イエイツ『ケルトの薄明』井村君江訳(東京:ちくま書房、1993)。これは、ただの民話の採録集というより、イエイツの個人的な回想や随想なども含めたケルト民俗学への入門書で、とても魅力的な書物であ…

『ケルト妖精物語』

しばらく前に『ケルトの神話』(井村君江)を読んで、その本が面白かったからなのか、面白くなかったからなのかわからないけど(笑)、いくつかもっと原典に近いケルトものを買ってみた。そのひとつが、W.B. イエイツ『ケルト妖精物語』(東京:ちくま文庫、…

アッカークネヒト『精神医学小史』

必要があって、アーウィン・アッカークネヒト『精神医学小史』を読む。石川清・宇野昌人の翻訳の第二版が1976年に医学書院から出ている。医者が書いた書物や論文の中の精神医学上の業績が、古代からクロルプロマジンの発見まで鳥瞰的に語られている本。翻訳…

17世紀のオバサン改造風車

未読山の中から、初期近代イギリスの都市の・・・なんていうのかな、「迷惑なもの」とでもいうのかな・・・まあ、そういうものの研究書に目を通す。文献は、Cockayne, Emily, Hubbub: Filth, Noise and Stench in England 1600-1770 (New Haven: Yale Univer…

日本の地形

必要があって、日本の地形学の入門書を読む。文献は、貝塚爽平『日本の地形-特質と由来』(東京:岩波書店、1977)日本の国土は安定大陸ではなく、活動帯に属している。複数のプレートが出会う地点にある場所に、千島、東北日本、西南日本、琉球などの複数…

エリアーデの錬金術論

ユングのパラケルスス論を読んでいて、ずっと昔に読んだエリアーデに似たようなことが書いてあったと想いだした。書棚の奥から探し出して、20年以上も前の自分の幼稚な書き込みに赤面しながら読む。今書いている文章も、20年たつと赤面するのだろうな、きっ…

デンマークの聖なる鉱泉

必要があって、初期近代のデンマークにおける鉱泉の歴史を研究した論文を読む。文献は、Johansen, Jens Chr V., “Holy Springs and Protestantism in Early Modern Denmark: a Medical Rationale for a Religious Practice”, Medical History, 41(1997), 59-…

初老期鬱憂症の研究

必要があって、昭和9年の初老性うつの研究を読む。文献は、中脩三・米山達雄・大村重人・山本哲次郎・中本甫「初老期鬱憂症の研究 前編」『福岡医科大学雑誌』28(1935), 859-968. この時期の精神医学の論文にはときどき長大でモノグラフと言ったほうがよいも…

肉食とヨーロッパ中世の女性の健康

未読山の中から、ヨーロッパ中世の女性の健康についての論文を読む。文献は、Bullough, Vern and Cameron Campbell, “Female Longevity and Diet in the Middle Ages”, Speculum, 55(1980), 317-325.ヨーロッパが中世の前期から後期へ、そして中初期近代へと…

日本の象皮病

先日江戸時代の日本でフィラリアが流行ったとどこかで書かれているのを見つけて、意外に思ってちょっと調べてみたら、疑問は解決しなかったけれども、それとは別に面白い話題があった。文献は、松下順二・吉永福太郎・帖佐彦四郎「象皮病原因及び予防法第一…

明治日本の軍事衛生

新着雑誌から明治日本の軍事衛生についての論文を読む。文献は、Lee, Jong-Chan, “Hygienic Governance and Military Hygiene in the Making of Imperial Japan, 1868-1912”, Historia Scientiarum, 18(2008), 1-23. 中心的な話としては、長与専斎-後藤新平…

障害の歴史

必要があって、フランスの障害の歴史の大作を読み直す。文献は、Stiker, Henri-Jacques, A History of Disability, translated by William Sayers, foreword by David T. Mitchell (Ann Arbor: The University of Michigan Press, 1997).著者はフランスの偉…

ファウストとパラケルスス

必要があってユングのパラケルスス論を読む。文献はC.G. ユング『パラケルスス論』榎木真吉訳(東京:みすず書房、1992) 「医師としてのパラケルスス」と「精神現象としてのパラケルスス」という1940年代の二つの講演をもとにしたユングの論文を訳したもの…

アレクサンダー大王

空港の本屋で偶然買ったアレクサンダー大王伝を出張の飛行機の中で読む。文献は The Legendary Adeventure of Alexander the Great, trans. Richard Stoneman (London: Penguin, 2006). これは、Pengui Epics という20冊ほど刊行されているシリーズの中の一…

ゲーテ『ファウスト』

必要があってゲーテ『ファウスト』を読む。岩波文庫の古い訳の二巻本。私の記憶に間違いがなければ、この有名な作品を実際に読むのは生まれて初めてだと思う。私が知っている他のファウストに較べて、筋が複雑というか、スケールが大きなストーリーだった。…

レオナルドのスケッチ

出張の合間の休日の一日、ロンドンでレオナルドのスケッチを見られる展示があることに気付いて、あわてて見に行く。Amazing Rare Things というタイトルで、英国王室が所有する自然誌関係の絵画やスケッチなどをバッキンガム宮殿のギャラリーで見せるという…

ケルトの神話

未読山の中からケルト神話の入門書を読む。文献は、井村君江『ケルトの神話 女神と英雄と妖精と』(東京:ちくま文庫、1990) アイルランドを中心に保存されているケルト神話を紹介する本。色々な神話エピソードの紹介と解説が中心だけれども、章によってか…

インド神話

未読山の中から、インド神話の入門書を読む。文献は、上村勝彦『インド神話―マハーバーラタの神々』(東京:ちくま学芸文庫、2003)1981年に初版が出た書物で、当時はヒッピーと比較神話学のようなものの全盛期で、きっといい加減なインド神話の紹介がたくさ…