Entries from 2011-09-01 to 1 month

ラブレー『ガルガンチュア』第五章

―抜いてくれよ!―こっちへ寄こせ!―廻してくれよ!―水を割って、な!―俺は、水なしにしてくれ・・・。とっ、とっと、そのくらい。ラブレーの『ガルガンチュア』の第五章に、「酔っ払いがくだをまく」と題された有名な章がある。私は渡辺一夫の訳で読んだこと…

道徳の医学化と宗教

Rimke, Heidi and Alan Hunt, “From Sinners to Degenerates: the Medicalization of Morality in the 19th Century”, History of the Human Sciences, 15(2002), 59-88.必要があって、19世紀における道徳の医学化についての論文。犯罪や不品行を中心とする…

19世紀の自殺と精神医学論

Kushner, Howard I., “Suicide, Gender, and the Fear of Modernity in Nineteenth-Century Medical and Social Thought”, Journal of Social History, (1993), 461-490.必要があって、19世紀の精神医学と自殺論の関係の研究を読む。私が大学1年生のときに習…

『モロー博士の島』

H.G. ウェルズ『モロー博士の島 他九篇』橋本槇矩・鈴木万里訳(東京:岩波書店、1993)必要があって、ウェルズのSFの古典『モロー博士の島』を読み直す。話は有名で、モロー博士が南海の孤島で動物から人間をつくるという設定である。当時の問題や不安が詰…

インターセックスの歴史

Reis, Elizabeth, Bodies in Doubt: an American History of Intersex (Baltimore: The Johns Hopkins University Press, 2009)必要があって、アメリカの「インターセックス」を、具体的な史実の分析に基づいて、中心的な主題をわかりやすく、多くのヴィヴィ…

ラ・メトリ『人間機械論』

ラ・メトリ『人間機械論』杉捷夫訳(東京:岩波文庫、1932)必要があって、ラ・メトリ『人間機械論』を読む。日本では、デカルトと並んで、西洋医学(人類学の言葉ではバイオメディシンという)の一つのプロトタイプとして知られていて、象徴的には重要視さ…

サドより抜き書き

「大勢の男に続けて尻のなかに埒をあけられるのも、よいことではないね。この腎水の混淆は、想像力にとっていかほど楽しくとも、健康のためには決してよくないのだ。放射液はその都度、体外に放出した方がよろしい」「でも、その放射液が体内に入るべきもの…

現代医療の人類学系STS

Kontopodis, Michalis, Joerg Niewoehner and Stefan Back, “Investigating Emerging Biomedical Practices: Zones of Awkward Engagement on Different Scales”, Science, Technology, and Human Values, 36(2011), 599-615.STS学会の機関誌である STHVが、…

『カジノ・ロワイヤル』

今日はツタヤで借りたジェイムズ・ボンドもののDVDを観ての無駄話。自分で意外に詳しいと思っているのが、オリヴィア・ニュートン=ジョンとジェイムズ・ボンドである。大学生のころ、原作のイアン・フレミングの小説をよく読んだせいだと思う。ジェイムズ・…

列仙伝・神仙伝

意味は何もわからないけれども、平凡社ライブラリーに入っている仙人の物語を時々読む。彼らは不老長寿の術を取得し、秘術を用いる仙人たちである。ぱらぱらとめくって最後のほうにあった短く美しい記述をメモする。魯女生は長楽の人。はじめは、胡麻とやま…

18-19世紀フランスの医学と化粧

Martin, Morag, “Doctoring Beauty: the Medical Control of Women’s Toilettes in France, 1750-1820”, Medical History, 49(2005), 351-368.必要があって、18-19世紀フランスにおける、医者たちによる化粧論を分析した論文を読む。1818年に、パリの女性た…

中世アラブ=イスラム世界における人間性の限界

Al-Azmeh, Aziz, “Barbarians in Arab Eyes”, Past & Present, no.134(1992), 3-18.必要があって、中世アラブ=イスラム世界が、世界の周辺地域において、どのような人間が暮らしていると考えていたのかを分析した論文を読む。歴史における何らかの集団とい…

Deborah Lupton on Public Health

必要があって、デボラ・ラプトンの公衆衛生論をチェックする。文献は、Lupton, Deborah, The Imperative of Health: Public Health and the Regulated Body (London: Sage Publications, 1995); Peterson, Alan and Deborah Lupton, The New Public Health: …

異国の空想ロマンスは女性の心を蝕むか

2nd: Nussbaum, Felicity, The Limits of the Human: Fictions of Anomaly, race and Gender in the Long Eighteenth Century (Cambridge: Cambridge University Press, 2003).必要があって、18世紀の英文学者による「アノマリー論」の古典を読む。書物全体…

19世紀の生と死

Laqueur, Thomas and Lisa Cordy, “Life and Death under the Signs of Thomas Malthus”, in Michael Sappol and Stephen P. Rice eds., A Cultural History of the Human Body in the Age of Empire (Oxford: Berg, 2010), 37-59.1800年の段階では、生と死…

『古代インドの科学と医学―古典医学を中心に

D. チャットーパーディヤーヤ『古代インドの科学と医学―古典医学を中心に』佐藤任訳(京都:同朋舎、1985)必要があって、古代インドの医学を論じた書物をチェックする。内容もさることながら、サンスクリット語由来(だと思う)の英語を、日本語で表記する…

坂出祥伸編『中国古代養生思想の総合的研究』

坂出祥伸編『中国古代養生思想の総合的研究』(京都:平河出版社、1988)をチェックして、古代中国の医学史についての、そびえるようなスカラシップに驚嘆する。大杉徹「『山海経』の「山経」にみえる薬物と治療」や、米田該典の医書の薬物の地理的な分析な…

美と医学

Hau, Michael, “The Normal, the Ideal, and the Beautiful: Perfect Bodies during the Age of Empire”, in Michael Sappol and Stephen P. Rice eds., A Cultural History of the Human Body in the Age of Empire (Oxford: Berg, 2010), 149-169.必要があ…

人間と機械

Rabinbach, Anson, “From Mimetic Machines to Digital Organisms: the Transformation of the Human Motor”, in Michael Sappol and Stephen P. Rice eds., A Cultural History of the Human Body in the Age of Empire (Oxford: Berg, 2010), 237-259.必要…

ダグラス・ノースの経路依存論

ダグラス・C・ノース『制度・制度変化・経済成果』竹下公視訳(京都:晃洋書房、1994)経済学者のダグラス・ノースが考えた経路依存性 (path dependency) についての部分をメモしておく。ノーベル賞を取った経済学者の仕事だから、議論のコアはまったく理解…

フンク『ヴィタミン』

Funk, Casimir, The Vitamines, authorized translation from Second German Edition by Harry E. Dubin (Baltimore: Williams &Wilkins Company, 1922).現代では「ビタミン欠乏症」として理解されている脚気や壊血病は、ながいこと独立した病気としてその存…

民主的な公衆衛生とは何か

Baldwin, Peter, Disease and Democracy: the Industrialized World Faces AIDS (Berkeley: University of California Press, 2005).公衆衛生には、感染症の予防に関して、個人の自由を共同体の安全と両立させるという根本的なジレンマがある。このジレンマ…

ジゲリスト=シンガー書簡集

Bickel, Marcel H., ed., Correspondence: Henry E. Sigerist – Charles Singer 1920-1956, Medical History, Supplement, no.30 (2010).新着雑誌、Medical History, Supplement に目を通す。ヘンリ・ジゲリストとチャールズ・シンガーの往復書簡集で、医学…

『シュルレアリスム宣言』

アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』巌谷國士訳(東京:岩波書店、1992)医学についても同じことを言えると思うが、特に精神医学の歴史は、いわゆる近現代に焦点がある。つまり、19世紀・20世紀以降、文化に随伴するサイドショウではなく…

『ポルノグラフ』

18世紀のパリの風俗を描いたレティフ・ド・ラ・ブルトンヌに、売春の国家による管理を唱えた『ポルノグラフ』というタイトルの書物がある。岩波のユートピア旅行記叢書で訳されている。金持ちのイギリス人がパリに来て売春婦から性病にかかり、「太陽にいち…

Chistopher Hamlin, Cholera (2009)

Hamlin, Christopher, Cholera: the Biography (Oxford: Oxford University Press, 2009)誰がコレラを問題として取り上げるかという問いは、大きな問題であった。コレラは、もともとはインドにおける土着の風土病であり、その存在自体は問題ではなかったが、…

1887年の安楽死論

Munk, William, Euthanasia: or Medical Treatment in Aid of an Easy Death (London: Longman, Green & Co., 1887)必要があって、ウィリアム・マンクの『安楽死』(1887)をチェックする。ウェッブ上の Google books でそのまま読むことができる。たしか、安…

19世紀の外科医は、なぜ当初は麻酔に反対したか

Snow, Stephanie J., Blessed Days of Anaesthesia: How Anaesthesia Changed the World (Oxford: Oxford University Press, 2008)エーテルやクロロフォルムで麻酔に掛けられた人間は、麻酔下の人間をはじめてみる人々や医者たちにとっては、生命と死がまじ…

『資本主義について、彼らが教えない23のこと』

Chang, Ha-Joon, 23 Things They Don’t Tell You about Capitalism (London: Allen Lane, 2010).しばらく前に書評で見かけて買った書物を読む。とてもいい本だと思う。現代の世界の経済とその考え方について、私のリテラシーは悲しいほど低いので、時々、雑…

伊藤和洋『アユルヴェーダ―古代インド医学と薬草』

伊藤和洋『アユルヴェーダ―古代インド医学と薬草』(東京:楽游書房、1975)必要があって、アユルヴェーダの解説書を読む。著者は、医学・薬学を学んだ厚生省の役人で、厚生省の仕事でネパールやスリランカなどの伝統薬学調査にかかわり、1970年代からWHOが…