Entries from 2011-08-01 to 1 month

石井香江「『詐病』への意志―『災害神経症』をめぐる<知>のせめぎあい」

石井香江「『詐病』への意志―『災害神経症』をめぐる<知>のせめぎあい」川越修・辻英史『社会国家を生きる―20世紀ドイツにおける国家・共同性・個人』(東京)法政大学出版局、2008 )171-205.「災害神経症」は、PTSDなどの起源になっている神経症の疾患で…

男性と女性の優劣について―『アラビアン・ナイト』より

男性と女性の優劣について―『アラビアン・ナイト』より「男女の優劣について、ある男が女の学者と議論した話」と題されたお話。私が持っているちくま文庫のバートン版だと、6巻の143頁以下、419夜から423夜までにあたる。男性の長老と、女性の学者が、男女の…

吸血鬼の精神医学的分析の変遷

Suibhne, Seamus Mac and Brendan D. Kelly, “Vampirism as Mental Illness: Myth, Madness and the Loss of Meaning in Psychiatry”, Social History of Medicine, 24(2011), 445-460.不思議な素材を用いた論文で、「吸血鬼」の症状が現れた患者がどのよう…

浮世絵と幕末・明治期科学の視覚表現

Low, Morris, “The Impact of Western Science and Technology on Ukiyo-e Prints and Book Illustrations in Late Eighteenth and Nineteenth Century Japan”, Historia Scientiarum, 21(2011), 66-87.著者は著名な日本科学史の研究者で、江戸の解剖図から…

不眠の歴史

Summers-Bremner, Eluned, Insomnia: a Cultural History (London: Reaktion Books, 2008).優れたカルスタの論客による「不眠」の歴史の研究である。ギルガメッシュから現代まで、不眠に関係がある文学作品などの分析を通じて文明の特徴を議論するという形に…

三宅鉱一「犯罪人(不良少年を含む)の予後」

三宅鉱一「犯罪人(不良少年を含む)の予後」上・中・下『刑事法評林』1(1909), 401-415; 2(1910), 33-50; 160-170.大正期に社会のそれぞれの部分に浸透することを目指すようになった日本の精神医学において、新刑法の制定に反応して、犯罪と精神医学の関係…

医学史研究会のお知らせ

次回の研究会のお知らせです。日時: 2011年9月5日(月) 13:00-報告者: 島薗洋介(Oxford/金沢大学)「処分不可能な商品のパラドクス:フィリピンにおける商業的腎臓提供の民族誌(仮) 」場所: 慶應大学三田キャンパス 南校舎4階 445号室http://w…

杉江董「反社会的危険性」

杉江董「反社会的危険性」『刑事法評林』2(1910), no.7, 779-803.杉江董「精神病者の社会的危険性に就て」『日本犯罪学会年報』1(1914), 20-31 犯罪者の人格・性格を研究することが非常に重要になる。すべての精神病患者は一時的すなわちある機会に際しては…

杉江董「社会現象としての精神病」

杉江董「社会現象としての精神病」『刑事法評論』3(1911), no.9, 987-1009. 大正期にはじまった、東大の呉秀三を中心とする精神医療のプログラムの一環で、この論文は読みごたえがある。統計と国際比較を用いて、日本では精神医療が社会に浸透していないとい…

犯罪と精神医学

三宅鉱一「犯罪人(不良少年を含む)の予後」上・中・下『刑事法評林』1(1909), 401-415; 2(1910), 33-50; 160-170.大正期に社会のそれぞれの部分に浸透することを目指すようになった日本の精神医学において、新刑法の制定に反応して、犯罪と精神医学の関係…

呉秀三とロンブローゾ

呉秀三「監獄の精神病」『監獄協会雑誌』18(1905), no.7, 1-42.呉秀三が、ロンブローゾの生来犯罪者の理論について面白いことを言っている。犯罪者は、身体に一定の変質徴候がある。しかし、その徴候は精神病者にもやはりある。だから、犯罪者に特有の徴候と…

山口順子のハンセン病研究

山口順子「仮名垣魯文とハンセン病の啓蒙―『綴合於伝仮名書』の上演をめぐって」『メディア研究』26(2009), 23-44. 山口順子「後藤昌文・昌直父子と起廃病院の事績について」『特集/第一回交流集会記録 ハンセン病市民学会2005』1[2005]、112-122.前者は、仮…

プラーツ『肉体と死と悪魔』

マリオ・プラーツ『肉体と死と悪魔―ロマンティック・アゴニー』倉智恒夫・草野重行・土田知則・南條武則訳(東京:国書刊行会、1986)精神病患者の妄想について確かめたかったことがあって、19世紀の幻想についてプラーツが考えていることをチェックした。こ…

巌谷國士『シュルレアリスムとは何か―超現実的講義』

巌谷國士『シュルレアリスムとは何か―超現実的講義』(東京:ちくま学芸文庫、2002)精神病の症例誌を読むために、同時期のシュルレアリスムを勉強しておく。全部で三つの講演を収めた本で、「シュルレアリスムとは何か」という表題作の講演のほかに、ワンダ…

「精神病疑似症とは何ぞ」

「精神病疑似症とは何そ」『医海時報』no.1185(1917), 1917/3/10, 7.保健衛生調査会の精神病部門の活動についての興味深い批判。著者はだれか分からない匿名の論文である。この論文が書かれた直接の経緯はこのようなものである。1917年3月3日、内務省衛生技…

トークングヘッズ叢書

トーキングヘッズ叢書vol.36『胸ぺったん文化論序説』, vol.45『メランコリックな身体』必要があって、主として身体を素材にした奇想と対抗文化を発信しているトーキングヘッズ叢書から二冊の特集号『胸ぺったん文化論序説』『メランコリックな身体』を読ん…

クレペリン『精神分裂病』

クレペリン『精神分裂病』西丸四方・西丸甫夫訳(東京:みすず書房、1986)クレペリンは『精神医学』という教科書の版を変えながら自説を発展させるという、ユニークというか不気味というか、とにかく独特な仕方で精神医学の研究を行った人物である。最初は3…

『医界風土記』

酒井シズ監修・日本医師会編集『医界風土記』全六冊(京都:思文閣出版、1994)たぶん10年ほど前の日本医史学会の「医史学興隆のために」というようなテーマのシンポジウムで、医史学の研究者ではない偉い先生が招待されて、「日本の医史学研究のかなりの部…

大槻玄沢

大槻玄沢『磐水存響 乾・坤』大槻茂雄編(1914[?], 京都:思文閣出版 1991年)大槻玄沢は、『解体新書』の杉田玄白と前野良沢に学び、18世紀から19世紀にかけて、江戸の私塾であった芝蘭堂で蘭学者の教育にあたった、蘭学の巨人の一人である。彼の著作などが…

精神病院の規制

山口義次郎『精神病院関係法規集』(東京:1935)精神病室・精神病院開設の許可を受けんとするときは、警視総監に申請すべし医師・薬剤師の勤務方法、看護人の勤務方法、看護人教育の方法、宿直及び夜警の方法、入退院に関する規定、面会に関する規定敷地周…

作業療法の正当化

加藤普佐次郎「精神病者に対する作業治療並びに開放治療の精神病院におけるこれが実施の意義及び方法」『神経学雑誌』25(1925), 371-403.松沢に移転して、作業療法の「一新紀元」がはじまった意気軒高な東京帝大精神科の加藤の力作である。作業療法の必要に…

小林靖彦「日本精神医学の歴史」

小林靖彦「日本精神医学の歴史」『現代精神医学大系1A 精神医学総論』(東京:中山書店 、1979), 125-161.精神医学という医学の分野においては、どういうわけか歴史研究が盛んで、東大教授などの指導的な精神科の医者が、同時に優れた歴史研究をすることが…

昭和の農村保健婦は医者と恋をするか

中道千鶴子「農村保健婦の実際活動」『医事公論』no.1531(1941), 11.29, 3664-6.著者は保健婦のパイオニア。農村保健婦の仕事について、医者との協力が必要であることに触れて、「医者が協力しない場合は、仕事に良心的な保健婦であればあるほど実に苦しい立…

C.P.スノウ『二つの文化』

Lisa Jardine, “C.P. Snow’s Two Cultures Revisited”, Christ College Magazine, no.235(2010), 49-57.http://www.christs.cam.ac.uk/cms_misc/media/Christs_2010_web.pdf2009年は、C.P. スノウの『二つの文化』の講演から50周年記念であったので、いろい…

江戸時代の精神医学論

山田光胤「江戸時代の精神医学における一本堂―『行余医言』巻五」『日本医史学雑誌』16(1970), 180-189.山田照胤「江戸時代精神病の治療に用いられた吐方(その二 喜多村良宅の治療について)」『日本医史学雑誌』9)1958), 38-46. 山田照胤「中神琴渓の精神…

精神病院法へ

中央慈善協会『精神異常者と社会問題』(東京:中央慈善協会、1918)呉秀三「精神病者の救済ならびに精神病学的社会問題」永井潜「民族衛生上より観たる精神病」三宅鉱一「精神病的中間者及び色情異常者の救護」山崎佐「精神病者に対する医学と法律との交渉…

「核家族のハザード」

Laslett, Peter, “Family, Kinship, and Collectivity as Systems of Support in Pre-Industrial Europe: a Consideration of the ‘Nuclear Hardship’ Hypothesis”, Continuity and Change, 3(1988), 153-175.「家庭から精神病院へ」という過程は、現代にお…

宮前千雅子「ハンセン病

宮前千雅子「ハンセン病」友永健三・渡辺俊雄『部落史研究からの発信―第三巻・現代編』(東京:解放出版社、2009), 285-298.ハンセン病史の研究状況のまとめの優れたものとして、人に勧められた。前近代、近代、戦後と、わかりやすく公平にまとめられていて…

精神病者監護法(1900)

青山良子「精神病者の家族の役割―<精神病者監護法>における管理システム」『解放社会学研究』14(2000), 116-133.「精神病者監護法」(1900)は、精神病患者を座敷牢に入れるための手続きを定めたことで悪名が高い法律である。大きな問題があった法律であり…

中島敦「山月記」

中島敦「山月記」は、1942年に出版された短編小説で、高校の国語の教材に採用されていることもあり、もっとも有名で人気がある短編小説の一つである。中国の古典に素材をとり、虎に変身してしまった人物が友人に語る物語を通じて、文学を志す若者が、不朽の…