Entries from 2010-04-01 to 1 month

イタリア・ルネッサンスの素描

大英博物館で「イタリア・ルネッサンスの素描」の展示が始まった。幸運なことに開催期間中にロンドンに出張する予定があるから、一生に一度のこの展示にいけるのをとても楽しみにしている。本格的なカタログは注文したばかりだからまだ到着していないけれど…

三島由紀夫『殉教』

出張の飛行機の中でもう一冊三島を読む。死の直前に自選した短編集『殉教』である。抜粋を二つ。人は自分の夢を語ることはできるが、自分が夢自体であうという感じを巧く語ることは決してできない(「スタア」)孔雀という鳥の創造は自然の虚栄心であって、…

三島由紀夫『音楽』

出張の飛行機の中で知人に勧められた三島由紀夫の『音楽』を読む。精神分析医が語る、患者についての物語という形式をとった小説である。精神分析の象徴の意味を知っていて、答えにわざとミスリーディングな象徴を混ぜ込んで分析医を翻弄させることができる…

武田百八十年史

必要があって、『武田百八十年史』をチェックする。天明元年の創業以来の膨大な資料を持っている武田薬品の社史で、豊富な資料を使い、著名な経済史の学者もかかわっている社史の傑作とのこと。医学史の中で一番コアな主題が、治療法、特に薬物についての歴…

恋のダイモン

必要があって、ルネッサンスのデモノロジーを分析した著作を読みなおす。文献は、Maggi, Armando, In the Company of Demons: Unnatural Beings, Love, and Identity in the Italian Renaissance (Chicago: The University of Chicago Press, 2006).ポンペオ…

神経衰弱というアイデンティティ

先日の論文をチェックしたときに、次に掲載されていたこの論文の内容が記憶になかった。きっと読まなかったんだと思う。それで読み出したらとても面白かった。文献は、Campbell, Brad, “The Making of ‘American’: Race and Nation in Neurasthenic Discours…

裸形の狂人

必要があって、「裸形の狂人」像についての論文を読み直す。文献は、Andrews, Jonathan, “The (Un)dress of the Mad Poor in England, c.1650-1850”, Part I & II, History of Psychiatry, 18(2007), 5-24, 131-156. 狂人を表象するときに裸体に描く伝統が西…

新着科学史雑誌から

後藤新平を帝国のネットワーク論の枠組みにはめこんだ論文と、津田梅子がアメリカでは生物学を学んでいたという史実を紹介した論文。前者は、Low, Morris, “Colonial Modernity and Networks in the Japanese Empire: the Role of Goto Shinpei”, Historia S…

フレイザー『金枝篇』

ヴィトゲンシュタインがフレイザーの『金枝篇』を読みながら考えたノートをまとめたものがあって、翻訳でいうと大修館の全集の第六巻に入っている。ヴィトゲンシュタインはフレイザーが呪術を説明する根本的な姿勢に対して非常に批判的で、きっとこの部分の…

イタリアのロボトミー

同じく新着雑誌から、イタリアの精神外科についての論文を読む。Kotowicz, Zbigniew, “Psychosurgery in Italy, 1936-39”, History of Psychiatry, 19(2008), 476-489. シンプルだけれども、重要な現象を国際比較から取り出してクリアな説明を与えた論文。精…

児童精神医学

同じく新着雑誌から、20世紀イギリスの児童精神医学の形成について。文献は、Evans, Bonnie, Shahina Rahman and Edgar Jones, “Managing the ‘Unmanageable’: Interwar Child Psychiatry at the Maudsley Hospital, London”, History of Psychiatry, 19(200…

黒人と精神医学

新着雑誌の読み残しから、20世紀アメリカの精神医療における黒人患者の位置づけについての論文を読む。文献は、Gambino, Matthew, “’These Strangers within Our Gates’: Psychiatry and Mental Illness among Black Americans at St Elizabeth Hospital in …

古病理学と江戸2

必要があって、人骨を利用した古病理学による江戸の都市史研究を読む。文献は、谷畑美帆『江戸八百八町に骨が舞う-人骨から解く病気と社会』(東京:吉川弘文館、2006)「古病理学」というテクニカルな学問は、なかなか歴史学者が興味を持つような問題につ…

古病理学と江戸

必要があって、古病理学の成果として有名な書物をチェックする。文献は、鈴木隆雄『骨から見た日本人-古病理学が語る歴史』(東京:講談社、1998)縄文時代の日本には結核がなかったこと、大陸からの帰化人が持ち込んだこと、そして、おそらく、結核への罹…

『世界像革命』

必要があって、E. トッドの『世界像革命』を読む。トッドはヨーロッパと世界の家族構造に着目して一連の話題作を書いている歴史学者。この書物は、解説、短い論文、来日したときの講演と質疑応答の翻訳などで、きっと入門書として優れているのだろう。トッド…

『神々の黄昏』

新国立劇場でワーグナー『指環』の最終夜、『神々の黄昏』を観る。『指環』の中で私が一番好きなのは『ワルキューレ』だけれども、その次に好きな作品である。ジークフリートの葬送や大団円のブリュンヒルデの熱唱は、いつ聴いても素晴らしい。英雄とその死…

『神々の黄昏』

新国立劇場でワーグナー『指環』の最終夜、『神々の黄昏』を観る。『指環』の中で私が一番好きなのは『ワルキューレ』だけれども、その次に好きな作品である。ジークフリートの葬送や大団円のブリュンヒルデの熱唱は、いつ聴いても素晴らしい。英雄とその死…

軍隊の精神病の詐病

必要があって、軍隊の精神病の詐病についての早い時期の論文を読む。文献は、円山廣俊「兵役忌避詐病行為被告人トシテ監置セラレタル早発性痴呆患者ノ鑑定書例」『軍医団雑誌』No.97(1920), 763-777.○山○蔵(本文中でも伏字が使われている)という二等兵が、…

戦時神経症

日本の戦時神経症の古典的な論文を読む。文献は、櫻井図南男「戦時神経症ノ精神病学的考察 第一篇 戦時神経症ノ概説」「戦時神経症ノ精神病学的考察 第二篇 戦時神経症ノ発生機転ト分類」「戦時神経症ノ精神病学的考察 第三篇戦時神経症ノ処理(其ノ二)」『…

「精神分裂病」の受容

必要があって、今でいうところの統合失調症にあたる「早発性痴呆」「分裂病」の用法について触れてある論文をチェックした。文献は、岡田靖雄「日本における早発癡呆―『(精神)分裂病』概念の受容」『日本医史学雑誌』42(1995)3-17.2002年に日本精神神経学…

戦争と神経症

和田小夜子「支那事変及び太平洋戦争を含む最近10ヵ年に於ける神経質患者の消長」『精神神経学雑誌』49(1947), 50-53.出版は戦後だが論文の受理は昭和19年8月20日であることに注意。「神経質・神経衰弱」系統の病気で外来を訪れる患者が少なくなったので、昭…

アラビアン・ナイトの二人の狂人

バートン版のアラビアンナイトの翻訳をこっそり(笑)読んでいる。ちくま文庫で全12巻。シュールレアリストの古沢岩美のイラストをカラーであしらった表紙は強烈なインパクトがあって、さすがにこのカバーは外して持ち歩くことにしている。(けれども、決し…

三宅鉱一

必要があって、三宅鐄一の精神病学論文集を読む。文献は、三宅鐄一『精神病学余瀝』上・中(東京:金原商店、1935)。東大精神科での臨床講義で、比較的珍しい症例のデモンストレーションなどを中心に編まれたもの。性的倒錯の症例、デペルゾナリザチオン、…

シーボルト『江戸参府紀行』

必要があって、シーボルトが長崎-江戸を往復したときにつけていた紀行文を読む。ジーボルト『江戸参府紀行』斎藤信訳(東京:平凡社、1967)これまで、必要な箇所(天然痘と山伏とか住民の梅毒とか)しか拾い読みしたことがなくて、落ち着いて読むのははじ…

精神病患者の「作品」

必要があって、19世紀中葉のアメリカの精神病院における患者の「作品」を分析した書物を読む。文献は、Reiss, Benjamin, Theatres of Madness: Insane Asylums and Nineteenth-Century American Culture (Chicago: University of Chicago Press, 2008)NY州…

『秋山記行』

必要があって、19世紀の秘境であった越後と信濃の国境にある「秋山郷」の探訪記を読む。文献は、『日本庶民生活史料集成』の第三巻に原文と詳細な注が入っているものを利用し、現代語訳も参照した。現代語訳は、鈴木牧之『秋山記行』訳・解説磯辺定治(東京…

東南アジアの疾病

必要があって、「東南アジアのブローデル」と呼ばれている名著の翻訳を読む。文献は、アンソニー・リード『大航海時代の東南アジア』I・II 平野秀秋・田中優子訳(東京:法政大学出版局、1997-2002)医学史の中で東南アジアというのは研究が進んでいなくて…

佐藤八寿子『ミッション・スクール』

必要があって、ミッション・スクールのカルスタを読む。佐藤八寿子『ミッション・スクール』が中公新書から出ている。話のハイライトは、大正期のミッション・スクールを舞台にした小説や、在学生・卒業生が重要な登場人物になっている一連の小説の分析であ…

新村拓編『日本医療史』

必要があって、新村拓編『日本医療史』を読む。新村拓編『日本医療史』(東京:吉川弘文館、2006)日本の医療について、社会の中での医療の視角を取り入れた数少ない古代から現代までの通史・概説である。戦国時代と近世の章は、私が知る範囲では飛び抜けて…

文献学者の夢

一海知義の『漢詩一日一首 冬』に面白いエピソードがあったので無駄話。欧陽修(1007-72)に日本刀を歌った詩がある。日本からもたらされた美しい刀を見て、その刀を作った国に思いを馳せるという内容である。まずは美しい刀の描写から始まるが、すぐに話は…